浪花花形歌舞伎・第一部【松竹座】

今年は“大阪松竹座 新築開場十周年記念”という冠もついており第4回目となる【浪花花形歌舞伎】。 残念ながら昨年だけ観劇が叶わなかったけれど「ココまでくれば定例公演定着!」って事で喜んでイイでしょうか♪

敵討天下茶屋聚

実は私、映像も含めてこの演目初めて観ました。 ので…デフォルト演出との比較が出来ないのですが、こんなに面白い演目なのにどうしてあまり上演されないのでしょうか? 今回のキャスティングが私的ツボにハマったのでしょうか? 次回までにそう時間を空けず他の配役でも拝見してみたくなりました♪
父親の仇討の為に旅を続ける扇雀さん@早瀬伊織と亀鶴さん@早瀬源次郎の兄弟。 憂いを秘め思い詰めた表情とひたすら一途な言動が時折、滑稽に見えてしまうのが面白い。
でこぼこブラザーズその旅のお供をするのが翫雀さん@安達元右衛門薪車さん@安達弥助の奴兄弟。 ヴィジュアルの“でこぼこ”感とお揃いの奴さんの衣装がなんとも可愛らしく、「どうみても兄弟には無理がある」ってな不審感は吹き飛びます?!
酒乱癖の兄を心配しながらも助け、しかしながら不手際により主君より勘当を言い渡された兄に対しての悔しさ、無念さを薪車さん@弥助兄思いの忠義一途な弟奴を好演
禁酒中に目の前で酒を美味しそうに呑まれた時の翫雀さん@元右衛門。 なみなみと酒を注がれた杯に目が釘付けになって口の形が条件反射する所は愛嬌たっぷり

我が身の失態からの勘当を恨みに思い、主君の仇討の敵である愛之助さん@東間三郎右衛門に寝返る翫雀さん@元右衛門。 歌舞伎で“もどり”は、よくありますが…逆ってのは珍しいですよね?翫雀さん@元右衛門
それでも小心者の可笑しみや憎々しさをもって元主君に敵対する様に驚きながら、あれほど自分を心配して慕ってくれた弟までも平然と殺してしまう悪党ぶりに唖然。 まさか!の緊迫の場面なのに「ど・ち・ら・に・しよう・かな」と斬る順番をジタバタと迷ったりして笑っちゃうのもビックリ。
貸屋敷に屋根から忍んで行く様は面白く、なんだかドリフを連想してしまった(♪盆まわし♪が聴こえてきそうなの!)

しかしながら同時に渋い悪人ぶりもみせてくれます。 ますが…この非情な悪人ぶりが唐突すぎる印象が強く、最期は可笑しみagainで…戸惑いもありました。 「まだ死なない」って、どうよ? 翫雀さんの魅力をあますところなく堪能できる面白く魅力的なキャラクターではありましたが~。
それと、裁き役としてのもうひとつのお役、翫雀さん@片岡造酒頭。 う~ん…と汗
早瀬兄弟の敵である愛之助さん@東間三郎右衛門。 雰囲気はあるものの“仇討物”の大敵としての存在感が薄かったのは残念。 ラスト、着流しの下はすでに襷がけをしていたのには「最初から戦う気マンマンじゃん!」と笑いのツボにヒット。
今回ものすご~く綺麗で感動したシーン☆
天下茶屋村松並木の場での…東間の手下vs進之介さん@人形屋幸右衛門が刀を構えてにらみ合った形で盆に載って登場~♪ この場面転換がたまらなくカッコよくって鳥肌が立ちました!
松並木の書割りもすっごく奥行きとスケール感があって良かったな~。

染模様恩愛御書【松竹座】

幻の傑作狂言・三世河竹新七作【蔦模様血染御書】を基として、この度染五郎さん×愛之助さん主演により復活上演(外題に“染”と“愛”を入魂!)
まだ発表されたばかり時のヴィジュアルはファイヤーな写真に二人の公式写真と【蔦模様血染御書】と興味をそそられる演目名が気になるけど…と、思っていたところに澤瀉屋一門からの出演も発表。 遠征決定!!
この度の上演は昭和10年1月以来だそうで、筋書きの上演記録一覧表はことのほか興味深く面白い! 今では全く馴染みのナイ劇場名や欠番?となっている役者名がズラリ並んでいて、外題もその時々でいろいろと変わっていて楽しい。
事前の広報活動ではノベライズとのコラボ企画もあり、いささかBL(ボーイズラブ)を強調したものではありましたが、観劇を終えて一言『“細川の男敵討”だった』
敵討ちをきちんと本筋に添え、武士道と忠義、愛情と友情、そこに陰謀を織り交ぜ、起承転結がテンポよく描かれていたうえ、ラストシーンには余韻も残る
座組も珍しいので目新しく新鮮な印象で楽しめた事も私的には大きな要因でした。
ちょっと疑問が残ったのが、敵役・横山図書(猿弥さん)の描かれ方。 “細川の男敵討”という主題になるほどの“大敵役”ではナイ印象で…。
不吉な刀を求めてしまった為に噂話を鵜呑みにし愛妻いよ(芝のぶさん)を手討ちにし、それを目撃してしまった印南十内(薪車さん)を斬ってしまう。その名字を名乗り(何故同じ名字を名乗るんだ?!)後添えに瓜二つの女性きく(芝のぶさん)を迎える…という図書。
講談では「彼はいささか短気なのがキズ」というような語りで片付けられますが、実はあの刀は妖刀であり、彼の意にはナイところで力が働いて…という事ではなかったのでしょうか? ですから、前半は“大敵役”という印象が薄く、悲しい運命に翻弄される男という印象(これはあえてそれが狙い?) 後添えのきくが大変慕っていた様から推察するに、それなりの人柄であったのではないかと思うのですが、だからこそ後半、いきなり“大敵役”な感じの演出にちょっと戸惑いました汗
染五郎さん@大川友右衛門に対して「本当なら私達こそ義兄弟」というような趣旨のセリフはとても効いていて好きでしたので、“計らずも敵方となってしまった運命のいたずらや哀しみ”を強調した方が私は好みかな。 でもお芝居としては“敵は悪者”とハッキリさせていた方が複雑にならず明快で良いのかもしれませんね。 猿弥さん、好演♪
セットは至ってシンプルな櫓仕立てで、表裏の二面をクルクルと廻り舞台で回転させ、スムーズに場面展開がなされテンポが良い♪
照明は従来の歌舞伎にはナイ斬新な使い方もあり印象的。 美術に関して色味を押さえているだけに、人物が際立ち、クライマックスの火事場では一気に劇場全体に色が染まった感じでその迫力が二倍増し! スチームや映像、火の粉などの迫力を全体に堪能するには…実は3階席の方があますところなく観れて面白かった♪
この演目のテーマ曲【愛の杜若】(←勝手にチープな命名)は…え~っと、ビミョ~汗
染模様恩愛御書
染五郎さん@大川友右衛門 この人となりが今イチ解りません。 これまでの身分を捨てて数馬と義兄弟の契りを結びその敵討ちに尽力する…というくだりは愛ゆえの事と納得ですが、その間(4年間?)実の妹と音信不通ってどういう事? ま、一番ビックリしたのは“長持の中で袴を履いた事”でしたが。 数馬に越中守を守護するように言い残して、火の海へ御朱印状を取りに向かう死を覚悟した去り際の気迫は素晴らしかったです!
愛之助さん@印南数馬 久々に女形を拝見したくなった!そんな印象でした。 友右衛門からの文にドギマギする様、返事を投げて階段から様子を伺う様などは“乙女”でした。 情けを交わした後に敵討ちの助太刀をねだる様は“女”でした。 殿様の前ながら、焼け焦げた友右衛門の亡骸に泣きじゃくりとりすがる様は“女房”でした。って、ココがすご~く良かったです! 彼の友右衛門に対する愛がどんな際どいシーンよりドキドキして、強く深く感じられてとても感動し、涙がそそられました! 「あんたぁ~、あんたぁ~!どうしてアタシを置いていっちまうんだよぉ~」って聞こえて…きそう…んな事はナイ汗
春猿さん@腰元あざみ 恋敵が男と知ってキリキリと苛立つ様、意地悪になる女心はすごくリアルで笑ってしまうほど。 数馬が好きで好きで…という気持ちからの愚かな行動に出る哀れさも共感でき、だからこそ最期は潔く自害させてあげたかったなぁと思ったのですが、これは同性ならではの意見でしょうか? 春猿さん、このお役と~っても合ってます♪
段治郎さん@細川越中守 出で…今まで感じた事のナイ“貫禄”が備わっていてビックリ!(少しお顔がふっくら…を差し引いても!) 意外なほど吉弥さん@照葉との夫婦ぶりも睦まじくこれまた驚き。 熱が入り過ぎて一本調子になるセリフが気になるところはあったものの、総じて爽やかな良き殿様像は成功では? 「大川も、元は細川~」って、あ~た…汗
芝のぶさん@横山妻いよ・大川妹きく 図書との婚姻は意に添ったものではない上、体調も思わしくない“いよ”。 そこへきて夫から不義の詮議をかけられ手討ちに…と、なんとも可哀想なことこの上なく、痛々しい儚さを好演。 一方、図書の後添えとなる“きく”は、いそいそと夫を想っている様が微笑ましく、だからこそ義兄弟となった数馬の敵と知った悲劇は際立った印象
他に印象に残った方は、紫若さん@茶店の女おせん(「娘さん」と茶屋客が言うたび客席がどよめく)、國矢さん@倅紫之助(つっころばしを初めて拝見!)
大奥消火隊
新しい試み、という事で一から皆で創り上げた作品なら、出来ればカーテンコールには全員出てきていただきたかったなぁ…と思いました。
ともあれ、まだまだこのように面白い狂言が上演されずに眠っていたりするんでしょうから…復活上演、これからも期待してます!!
※吉弥さん@照葉のイラストはフィクションです。 ホントは一人だけちゃっかりと防火服に身を包み(腰元衆よ、鉢巻きと長刀だけでは消火出来ないだろ!)スタコラと逃げて笑えます。 殿の分も用意してあげてよ~!

七月大歌舞伎・夜の部【松竹座】

一條大蔵譚

個人的には…この演目はお腹いっぱい、という感じ。 何故か立て続けに観ている印象でして…お話的にあまり好きではナイのですが、そこは今回、仁左衛門さん@一條大蔵卿。 私、初見なうえ、今回は松嶋屋さん勢揃い!な感じで楽しみに拝見。
出はニコニコと、観ている方は思わずカワイイ!と言ってしまうような笑顔なのですが、全体的な印象としては、過剰な阿呆作りをしていない、という事。
本性をキリリと現してからは「カッコイイ!」 ラストも「はよ去ねよ♪」と言いつつも、打ち落とした勘解由の首を抱えて格好良くキマリ☆ 阿呆には戻らず…これは松嶋屋の型なんだそうです。
愛之助さん@吉岡鬼次郎は、昨年3月歌舞伎座で仁左衛門さんを拝見しているのが何故かすごく目に焼き付いているので「うわぁ、ソックリ!」と改めて驚いたり。忠義に厚い、一途な感じがとてもよく出ていて好演でした。

京鹿子娘道成寺

「うわぁ、可愛い~っ」…とは、道行のお着物。 藤色地に大ぶりな白、ビンク、ブルー!の桜と細かい桜のライン。 帯は山城屋の紋・星梅鉢が散らしてあって鮮やか、艶やか! そして髪飾りは…まるでティアラか?!てなくらいのキラキラかんざしのセンターには、これまた星梅鉢がドーン。 「いったい総額いくらかかっているお衣装なのやら」と下世話な考えもよぎってしまうほどのゴージャスさ。
「綺麗な女人が尋ねてきた~」と浮き立つ、チーム所化はラブリーさ炸裂。 ま、中でもピカイチなのは翫雀さんなのは言う間でもありませんが。
千穐楽の“マイづくし”は壱くんだったそうで、観たかった!
今年二月博多座では【大津絵道成寺】でしたが、やはり王道?をこうして観てみると、改めて“長唄舞踊の大曲”と思い、この演目の人気振りと演じ手側の大変さを堪能。
藤十郎さんの花子は…情念が未練に強く勝っている印象でした。 『次第に妖しさを帯びて怨霊の正体が』というよりは、最初からメラメラ~っと来るものが花道でキッと鐘を見据えた時にありました。 ですから、乱拍子、急の舞、手踊、花笠踊り、クドキ、鞨鼓、鈴太鼓…全てにおいて踊りは“パワフル”な印象
ラスト、鐘の上では「どうだぁ~」って、かな。チーム所化が祈るポーズで幕…は絵的にとても美しかったです。
3代成駒屋

魚屋宗五郎

実は私、何故だかこの演目にはあまり縁がなくて…映像も含めて、数えるほどしか観た事がナイ。 この度はと~っても久し振りの観劇。
んな、訳で今更ながらの気付きなのですが…この演目、登場人物が全て海にちなんだ名前だったとは初めて知りました。まるでサザエさんじゃん! 魚屋の話だから…でしょうが、もしかしたら歌舞伎好きの長谷川町子先生はこの演目からもヒントを得たのかも?!
孝太郎さん@おなぎのオロオロぶりが良かったですね。 「こんな事と知っていたら持っては来なかったのに~。私が持ってきたばっかに~。」ってすまなさそうな加減が、なんだか段々体が本当に小さくなってしまっているように見えてきて笑えます。
時蔵さん@女房おはま。 最近、時蔵さんの“肌色女房(←私造語:肌は地色で長屋の疲れた女房)”を観る機会が増えたような? 美人は美しいお役で個人的には観たいのですが、そこは演技で魅せてくれます! 酒で正気を失った酒乱の菊五郎さん@魚屋宗五郎を体当たりで静止する必死ぶりには同情しちゃいますし、お屋敷で正気を取り戻した夫をたしなめる女房ぶりはかいがいしく素敵です。
この演目を筆頭に、酒で失態を犯してしまう…という歌舞伎演目って多いですけど、どれもホントに美味しそうにお酒を飲むんですよね~。 下戸の私も「美味しそうだなぁ」と毎度思ってしまうのは、役者さんの力量なんでしょうね♪
翫雀さん@磯部主計之助ってラストもラスト、最後にチラリと出てくるお殿様ですが…友達が観劇した日はドカン☆と笑いを取ったとの事。 あの場面のどこでそんなキッカケが?! 残念ながら?私の時は普通でした~。

七月大歌舞伎・昼の部【松竹座】

昨年の11月、南座の顔見世からスタートして各地を巡っていた襲名披露公演がよ~やく地元、大阪・道頓堀の松竹座に戻ってきました!
初世坂田藤十郎がこの地で和事芸を、上方歌舞伎を創始。 231年振りに“平成の坂田藤十郎”として復活し、この度のお披露目であります。
上方歌舞伎不遇の時代の間もずっと応援をされてきた地元ファンにとっては喜びはひとしおだった事でしょうね。

輝虎配膳

昨年、六月歌舞伎座にて『歌舞伎座では33年振りの上演』という事で、滅多に上演の機会はナイんだなぁ…と私、有り難く初観劇の演目だったのですが、こんなにすぐまた観れるとは~!
【歌舞伎の三婆】のひとつといわれる越路は竹三郎さん。 前回拝見した時は秀太郎さんでしたが、今回は言葉が不自由ながら琴を弾いて母(越路)を助けるお勝を健気に。「越路を演じられる役者さんが二人も同じ板で…」と、なんだか贅沢な気分。
竹三郎さん@越路は、凛とした強さ…よりは、心の葛藤の部分が強く伝わってきた印象であり、それを助ける秀太郎さん@お勝の琴の音はちょっと泣いているように感じました。
楽しみにしていた我當さん@輝虎の“たけのこ脱ぎ(?)”は、残念ながらありませんでした。「も~う、メチャメチャ怒ったゾ!」という様と、彼の癇癪具合が伝わるし…なにしろ笑えるので、あの上着を何枚も次々と脱ぐ演出はあってほしかったなぁ。 上方はしない演出なのかしら?
進之介さん@直江山城守。 なんだか台詞の間?抑揚?が不思議で違和感が~。

連獅子

今遠征で何が楽しみって、コレです、コレ! この親子の連獅子です! 過去にも何度か演じられているんですが、観劇の機会に恵まれず今回がお初の私。 幕見を含めて2回拝見。
お囃子連中の皆さんの裃の家紋がズラリと“寒雀”だったのに嬉しくて涙。
「壱くん、なんてまぁ…立派になって…」と親戚のおばちゃん状態で終始ウルウル。
谷底に仔獅子を突き落とした時の翫雀さん@親獅子の心配そうな表情には胸が痛くなり、水面に映る親獅子の顔を見て喜びいさんで谷を駆け上がってくる壱太郎くん@仔獅子の愛らしさと躍動感は、他の役者さんで何度も観ているというのにボロボロ泣いてしまいました。
ご贔屓のお家の“親子連獅子”とは、こうも感動するものか!と驚き、自分のハイテンションぶりにも驚き…観劇後の脱力感はスゴイものが~。
今回の間狂言はいつもの“宗論”ではなく、狂言の【蟹山伏】を元にした“修験者”。 昭和43年以来の上演だそうで、私はもちろん初見。 翫雀さん曰く「今後もこの形で」との事。
あらすじは…
清涼山の麓の村に獅子が出て、田畑を踏み荒らして村人たちが困っていました。
そこでこれを修験者に合力をもって獅子を封じ込めてもらいたいと村娘たちが探していたところ、酒に酔ったなんとも頼りない修験者に遭遇。 そこで彼にお願いするのだが
…というもの。
連獅子に村娘(鴈乃助さん&扇乃丞さん)…と女性(ホントは男だけど)がこの演目に絡むのがなんとも不思議な印象で新鮮。 また愛之助さん@修験者の「いろはにほへと~」と胡散臭い祈祷ぶりも笑えます。
牡丹の花に戯れ遊ぶ親子獅子の様は微笑ましく、毛振りのそれぞれのタイミングを知らせる翫雀さんのドン!という足音は迫力満点(ちと恐い)。
まだ同じリズムで揃っての毛振り…とはいきませんが、気がノッていました!
「翫雀さんって、カッコイイのね」って、言った友に告ぐ。 何を今更~「知らんかったと?カッコイイとよ!」

口上

壱くんが並んでます! それだけでジ~ンときていたら…「あれ?扇雀さんは?」と今更、気がついた私。
お父様の悲願の坂田藤十郎襲名。 その披露公演をこの道頓堀で!…なのに居ない(勘三郎襲名披露巡業へ) ちょ~っと…あの~、その~、かなり複雑な心境でありました。

夏祭浪花鑑

まさにこの季節、この地でのお話を、藤十郎さん@団七九郎兵衛を初役で!というなんとも嬉しい趣向。 襲名披露で初役って…ここ最近の襲名で他の方でされた方、いらっしゃいましたっけ?
今年5月新橋演舞場で観た時に、大詰の「わっしょい、わっしょい」に激しく違和感を感じて、不完全燃焼だったので、早く上書きした所にきて“上方”にこだわった演出と聞けば期待も高まっての観劇。
今回は原作を尊重して序幕は“春”。 皆さん着物も袷で、美術ものどか~な、うららかな陽気が漂っている感じで目に新鮮。
ひと言「藤十郎さん、若い」 団七って、結構ジャンプするところがあるけれ無問題。 片足立ちでも軸がブレる事なく綺麗に型が決まって…“一生青春”です。 団七って“スッキリしたイイ男”なイメージですが、藤十郎さんは…なんでしょう?やっぱり“こってり一途”でしょうか。
仁左衛門さん@一寸徳兵衛とお揃いの色違いの格子の浴衣、お揃いの柄の扇子での2ショットは、それだけでジーンとするものがありました。
そして今回はなんと段四郎さん@三河屋義平次! “鶏ガラのようにヤセて垢まみれ”という義平次の風貌は、更におヤセになっている印象の段四郎さんに違和感がなかったのには驚き。敵役では数多く拝見しているものの、このようなタイプのお役では初めての拝見だったので。
「悪い人でも舅は親。 親爺どん、許してくだんせや~」と絞り出すように叫ぶ声と「チョイヤサァ~、チョイヤサァ~」という群衆の声のトーンの落差に、団七と一緒にハッとさせられました。
竹三郎@おつぎの、菊五郎さん@お辰に対するライバル心がメラメラと~可愛かったです。

団七&徳兵衛

壽 初春大歌舞伎・夜の部【松竹座】

神霊矢口渡

孝太郎さん@お舟は今回が初役だったんですね もう何度もされている印象があったので驚きでした。
前半の…薪車さん@新田義峯を見染めて態度が豹変する辺り、春猿さん@傾城うてなの事を「奥さん?妹さん?」と尋ねるまでの恋する乙女ぶりは予想通りの可愛らしさでニッコリ。 どなたが演じられても、お盆を鏡のように使ってそれに映る義峯をウットリと見とれる場面は好きなんですけど…良かったです♪
ただ全体的にちょっとバタバタと動き回る印象が、ガサツな雑な感じに見えて気になりましたが…田舎娘?だからそれでイイのかしら? 上手く表現できないのですが「頑張ってます」って気持ちが前に出過ぎて…観てて疲れるというか?
ですから手負いになった後半の方が“イイ感じ”に押さえられていて好きでした。 ラスト、櫓で両手を合せて微笑む様には「なんて表情しているの~」と、ガツンとやられました。 だから孝太郎さんという役者さん、好きなんだなぁ。
弥十郎さん@渡し守頓兵衛も初役との事。 姿からもして大きく、壁を壊して家に入る様、大きな体を折ってちんまりと縁の下に潜り込む様には滑稽な可笑し味を強く感じました。 誤って娘を刺し、その瀕死の娘を見ながら裏切りを責めるくだりは“強欲非道”ぶりがよく出ていました

仮名手本忠臣蔵【落人】

ただひと言「綺麗~」☆ 眼福、眼福~と客席は皆鑑賞していた事でしょうね。
幸せな未来は望めないけど、こうして二人で居る今が幸せ…というような気持ちが伝わってきて、この後の悲劇を知っているだけにせつなく観てしまいます。
そこへあって…猿弥さん@鷺坂伴内の登場ですよ☆
花道の出だけでも笑えるあの猿弥さんのキャラクターは最強です! コロコロと…ヒョコヒョコと拵えだけでないキャラクターのに可笑し味が最高に表現されていて良かったです。
歌舞伎界一の名コンビの美しい舞踏に猿弥さんがこうして絡む。 感慨深いものがあり、笑いながらもウルッときてしまった私です。

仮名手本忠臣蔵【五、六段目】

段治郎さん×仁左衛門さんのツーショット。 こんな舞台を拝める日が来ようとは…。 芝居うんぬんよりも【山崎街道鉄砲渡しの場】では、段治郎ファンとしては感慨深いものがあり、涙ぐんでしまいました悲しい
段治郎さん@千崎弥五郎は“熱血”な感じですね。 今公演では一番このお役が好演でした。
愛之助さん@斧定九郎 出だけで「うわぁ~、この人悪人だよ」って判る風情。 目の動きや立ち廻る様で不気味さ十分のところにひと言つぶやく「五十両~」にゾゾ~ッ。 黒×白×赤の色彩の対比が美しく色悪の色気充分でした♪
竹三郎さん@母おかや も~う、も~う泣かされました 仁左衛門さん@勘平×玉三郎さん@おかる…な訳で、それだけで納得というか満足させられる部分もあるかもしれませんが『それだけ(主役)では舞台というのは成り立っているんじゃないんだよ』という事を観た感動的なおかやでした。
夫を殺したのは婿ではないかと疑い、確信を持ち責め、それが間違いであったと詫びる…この場で一番心を寄せて観たのは“おかや”に、でした。
勘違いから己の腹を切った勘平と、この一家の悲劇をより一層際立たせているのは竹三郎さん@母おかや。 素晴らしかった
あと特筆すべきは笑三郎さん@一文字屋お才。 おかみさん風情がなんとも自然で、シャキシャキと店を切り盛りしている様子がや仕事に対するプライドもみて取れて好演。 何を演っても上手い方だなぁ…と思っていたけど、このお役が私の中ではココ最近の中では最大のヒット☆

春調娘七草

『江戸の正月興行の吉例であった曽我物にちなみ、曽我五郎、十郎に静御前が絡み正月風俗の七草行事を題材に踊るという趣向の長唄舞踊』だそうですね。
“曽我兄弟と静御前”という組み合わせにいつも「」だったのですが…。
猿弥さん@曾我五郎は良かったです。 え~っと、やっぱり厳しいな、と思いました。 “型通り動いている”という印象で、“踊っている”んじゃナイ感じなんですよね。 特に段治郎さん@曾我十郎は、舞踏でいつも思うのですが、そのキャラクターの気持ちが入っていない感じがします。 表情が特に「いっぱい、いっばい」で…今後に期待。