スカーレット・ピンパーネル【宝塚大劇場】

ず~っと観てみたかった1997年ブロードウェー初演のミュージカル作品。 日本での上演が宝塚歌劇団にて…と決まった時は正直ひどく落胆しました。 だって…歌がぁ~冷や汗 肝心の歌がぁ~汗
劇団四季【Song&Dance2】で♪マダム・ギロチン♪が歌われていた際に、その歌詞の内容と歌の迫力と重厚さに非常に印象に残っていたので、どうしてもそのレベルを求めてしまうんだもの~。
しかし!それは、歌の上手さに定評のある安蘭けいさんが率いる星組の上演という事で救われたうえ、その星組に在籍する従姉妹の高校時代の友人で今や男役さんの彼女が“本舞台で初めてセリフがある役で出演と聞けば…これはやっぱり観てみたい!
以前より『一度、あの独特の世界観でいつの世も乙女を夢中にさせている“乙女の本拠地”に足を踏み入れてみたい』と思っていたので、これはイイ機会かもと遠征を決行。 …って松竹座で【七月大歌舞伎】があっていたから抱き合わせ観劇で決定した訳で、ヅカ単独での遠征はあり得ませんでしたが~汗 あの【マダム・ギロチン】って曲がどういう場面で使われている曲なのか?っていうのもすごく気になっていたので。
今上演にあたって潤色・演出を手がけるは小池修一郎さん。 フランク・ワイルドホーンさんの曲+小池さん…といえば【NEVER SAY GOODBYE】で2006年読売演劇大賞優秀作品賞受賞しているので、これまた期待大! 私は今作品はこのヅカ版が初見なので、オリジナルにどの部分が潤色されているのか?は判りませんが【愛憎劇】【冒険活劇】【コメディー】という三つの要素が上手く調和した痛快娯楽作☆という印象でした。 ヅカ版のために書き下ろされた【ひとかけらの勇気】はテーマ曲として使われ、疑惑~希望~和解~愛情という感情の流れの根底に常に1本の筋を通している印象で効果的。 ただヅカ故に主人公二人の愛憎劇に重きを置いたせいか?いとも簡単にルイ16世の王太子シャルルを救出してしまったのは拍子抜け汗

抜群の歌唱力で堂々と演じる主演男役の安蘭けいさん@パーシー・ブレイクニーの存在感は圧巻。 きらびやかヴィジュアルや確かな芝居、美しいダンスだけでは到底カバー出来ない“歌唱力”に負う所が大きいこの作品。 私はヅカに詳しい訳ではナイので他の組がどうだ?というのは判りませんが“今の星組の上演で正解☆”という気がしたのですが…この素人考えはいかがでしょうか?
安蘭さんは昨年2007年8月の博多座公演で一度拝見した事がありますが、この時は喉が不調だったとの事で、彼女の本来の歌唱力を堪能出来ませんでした。 故に、今公演で「うわぁ~、この人ホント上手い!」と感嘆しながら心地良く聴き入ってしまいました。 前回気になっていた“べらんめぇ口調”はすっかり陰をひそめ、キザでウィットに富んだ正義感溢れるイギリス紳士、はたまた怪しげなヒゲおやじ~、と次々とキャラクターと衣装を替え、またコメディセンスは言わずもがな抜群で客席の笑いをドッカン☆ドッカン取っていらっしゃいました♪
ただ~アドリブに対する客席の反応って…過剰ですね汗 通っているヅカファンが多いからこその毎度のお楽しみポイントなんでしょうけど“笑う事を思いっきり構えて観ている”、“ココで笑わなきゃ!”というような…なんか、中村屋さんの芝居における客席にも似た心地悪さを感じて、引いてしまいました~冷や汗
ちなみに本日のアドリブと思える肖像画スケッチのシーンでは「こんなポーズだったかな?」とピンクレディのUFO♪のポーズを取り~「あ、違った!こっちか!」と、角度を変えてもう一度UFO♪ 顔芸も最高に笑えます! 『清く正しく美しく』のジェンヌがイイのか?!あの顔は?!汗 あと…仮装舞踏会の衣装をショーヴランに助言するシーン(だったっけ?)で「衣装はピンクのネグリジェみたいなビタァ~ッとした、シュッっとして~、ヒュ~ッっとした…」とか擬音連発で衣装を提案してました。
遠野あすかさん@マルグリット・サン・ジュストはもったぶったセリフ回しが気になるうえ、得意・不得意の曲の歌唱の差があってバラつきはあるものの、歌唱力がある事は確か。 やはり姿勢とドレス姿が美しい方ですね。 キリリと凛とした強い意志を持つ主演娘役さんだなぁ…という印象を更に強くしました。
柚希礼音さん@ショーヴランは…歌唱が不安定なものの、役所を的確に演じており身にまとう雰囲気と“熱”に拍手
“ヅカならでは”のきらびやかで豪華な仮面舞踏会や、迫力ある群衆シーンなどは星組一丸となった大所帯の熱演で迫ってくるものがあり、大いに満足させられた舞台でした。
そして『これがヅカ以外での上演だったらどうなっていたか?』と考えさせられました。 仮に東宝であれば、時代設定など被る作品も多く、またいつもの固定メンバーでの上演だったら…逆に厳しそうですね~?汗

劇場 キャスト
パーシー・ブレイクニー:安蘭けい/マルグリット・サン・ジュスト:遠野あすか/ショーヴラン:柚希礼音

七月大歌舞伎・夜の部【松竹座】

熊谷陣屋

最近やたら観ている印象ですが、松嶋屋+成駒屋のみの関西勢で演じられた今舞台は独自の部分もあって興味深く拝見
まず仁左衛門さん@熊谷直実の裃がすっごく奇麗で目を奪われました☆ 亀甲模様のベースのそれぞれの配色が“日本の伝統色”のカラーチップを散りばめたような…カラフルなんだけど渋い色合いでホントに奇麗~♪ 胸元の家紋“向かい鳩”も金糸の刺繍で立体的で素晴らしい細工。 これはご自身で誂えたものなんでしょうね?
孝太郎さん@藤の局熊谷の陣屋に助けを求めて転がり込んで来る…というくだりは、私は初めて観たような。 この前置きがあるからこそ藤の局が突然姿を現して斬り掛かる~という所が「あんた誰?」感がなくてイイですね。
熊谷直実が我が子の首を三段まで持って進み出て、それを秀太郎さん@相模はよろめきながら立ち上がり、三段を途中まで上って受け…夫婦揃ってその首を持ちながら見つめ合い涙する所は、胸を締め上げられるような悲しさが伝わってきました。 こんなに長い時間、我が子の首を手にして嘆く相模は初めて観ましたし、納得できない無念さがより伝わってきましたし、忠実な家臣とはいえやはり愛情深い父親であった直実の我が子と別れ難い悲しみをこの時点でより鮮明に伺う事が出来ました。
藤十郎さん@源義経の「解った、そういう事にしておこう」という度量の深さに加え、直実夫婦の悲しみに深い哀れみと同情している様が伺え、何故かしら義経の表情を観て泣けてしまいました悲しい
これらの濃厚な芝居の中、我當さん@白毫弥陀六実は弥平兵衛宗清のセリフ回しだけが個人的にはちょっと浮いているように感じられたのが唯一残念。 着物は“南無阿弥陀仏”柄?なんですね。
『同じ演目でも役者が替わればこうも違う』という、歌舞伎観劇の楽しさを改めて知らされた…という感じでした。

黒手組曲輪達引

河竹黙阿弥作の“世話の助六”で、至る所に【助六】のパロディが散りばめられた世話狂言。 私、これも初見の演目。 今月の松竹座の演目…実は私、初見のものが多かったのも今遠征を決行した一因なんです。
菊五郎さん@番頭権九郎花川戸助六の激しい落差の変身ぶりは楽しい楽しい♪ ここまでヴィジュアルも演技も鮮やかに演じ分け、どちらも充分な魅力で楽しませてくれる役者さんって…やっぱり当代は菊五郎さんがピカイチ☆ではナイでしょうか?
菊之助さん@新造白玉との道行き、花道の出では「菊之助さん、よく吹き出さナイなぁ」と妙な所で感心しながら、どえらい美人さんぶりに見とれました。
松緑さん@牛若伝次のメイクがやたら大衆演劇風だったのがひどく気になりました汗 不良っぽい感じを出そうとしての事でしょうか? 初めて観た化粧だな…汗
今演目の最大のお遊びはご当地ネタ大放出! 菊五郎さんって…あの【2001年宇宙の旅】のテーマ曲(クラシックの正式曲名は何でしたっけ?)好きですねぇ。 カモが黄色×黒ストライプ法被と鉢巻きを身につけて“トラガモ”で登場。 田之助さんは【大阪くいだおれ】閉店の8日までは“くいだおれ太郎”→閉店後は阪神タイガースのマスコット“トラッキー”。 そして團蔵さんはKFCの“カーネル・サンダース”で「ぐぅ~っ♪」。 團蔵さん“エド・はるみ”好きですねぇ。 只今絶好調の阪神タイガース、これらのキャラクターが今年また道頓堀で弄ばれるかも?!
この後「あ、これはあの場のパロディね」というシーンが目白押し!ですが、前半のインパクトが強すぎたせいか、サラリと流れた感じで印象が薄かったのは…演目全体としては良かったのか?悪かったのか?汗
立ち廻りにご当地仕様の“だんじり”が使われていたのは風情があって◎
印象的だったのは、亀三郎さん@朝顔仙平。 助六では朝顔モチーフ満載のとぼけた道化キャラ(大好き☆)ですが、こちらは気の短い怒りっぽい荒々しい厳めしい武士風情。 こんなタイプのお役の亀三郎さんを拝見するのは新鮮で、かつて歌舞伎の演目でここまで長いセリフをしゃべっているお役…というのは初めて拝見したような~?で嬉しい配役。 うん、やっぱり彦三郎さんに更に似て来た!
そして橘太郎さん@白酒売り。 睫毛まで白く塗っているので、なおさら“おじいちゃん”という感じ。 武士の横暴さにビクビクしながらも、言う事は言う!気丈さと愛嬌が。 ん~、やっぱり橘太郎さん、ラブリ~♪

羽 衣

幻想的な美しさを堪能する舞踏で終わるのか…と思いきや! 舞台機構がすっごく面白く、ラスト「うぉぉぉ~!」とおもわず声を出して感嘆してしまいましたっ! 松緑さん@漁師伯竜から、羽衣を返してもらった菊之助さん@天女が、天へ舞い上がる見せ方がソレ! 手前の松やの岩場がセリ下がると同時に、舞台奥から雲塊がセリ上がり…その上で羽ばたく天女は、まさに“天に舞い上がる”ように見えて面白い! これって…デフォルトの演出ですか? 先人の舞台演出の工夫には多々驚かされますが…いや~、感心しました!

団子売

ご当地仕様でセットは“天神祭”。 愛之助さん@杵造×孝太郎さん@お臼夫婦は、最初に頭巾と法被(正式名称は何て言うの?)を身につけているタイプなんですね。 私、この拵えがすっごく好きなので嬉しかったです♪ 私、観ているようで…意外と観ていないこの組み合わせの夫婦でしたが、色っぽいくだりに「あらま」というような仲睦まじさ見てとれた、軽やかな打ち出しでした。

七月大歌舞伎・昼の部【松竹座】

例年だと“夏に遠征”というのはあり得ない私ですが、今年は以前からすご~く観てみたかったミュージカル作品が宝塚大劇場でかかる!という事で心が揺らぎ~「あ、松竹座で歌舞伎やってるじゃん!」と気付きまして…決行!
数日前の7月8日に閉店した【大阪名物くいだおれ】の店先には、もはや“くいだおれ太郎”の姿もなく…いつも賑わう道頓堀がちょっと寂しく感じました悲しい
で、気がつけば私、図らずも…菊之助さん&亀三郎さんは5月より三ヶ月連続、橘太郎さんに至っては4月より四ヶ月連続の観劇となったのでビックリ! まるで追っかけみたい~汗(橘太郎さんはファンですけどネ)

植物 春調娘七種
先月の博多座も菊之助さん@曽我十郎祐成松緑さん@曽我五郎時致で拝見しているので、なんだか続きを観ているような不思議な感じ汗(拵えも全く同じだし)
歌舞伎を観ていると「何故この季節にソレなんだ?!」と季節感を全く無視した演目がかかるのが常日頃なんとも不思議に感じている私(夏に【紅葉狩】は拷問です!)。 日本の伝統芸能=四季の移ろいを楽しむ…みたいな、四季がある国だからこ今の季節を楽しむ=風流(=贅沢・娯楽)、かと思ったり…。 しかしそうなると演目がなおさら固定されちゃいますから…面白くナイんだろうなぁ~汗
で、この舞踏は正月の七草粥の準備を…という設定。 孝太郎さん@静御前は、赤姫が頭に手ぬぐいを…って他では観れないですよね。 ひとりお澄まし姉さん、という感じでしたが…艶やかな一幕で、目が覚めました!

 第十四回【日本俳優協会賞】表彰式
幕間にいきなり式典が始まったのでビックリしました! 「今月は毎日あってるのか?!」と思いきや、本日たまたま…だったようですね。 式典の様子はコチラ
司会進行は鈴木治彦さん、プレゼンターは藤十郎さんと田之助さん。 受賞者の鴈乃助さん當十郎さんそれぞれに受賞の喜びをコメントされていた中、當十郎さんの十三代目さんとの思い出話にジ~ンときちゃいました。

便箋 血判取
自分のあやふやな記憶を辿ってみても…多分、この演目は初見かと。
左團次さん@徳川家康は「老衰すると何事も忘却~」「年を取っているので指の血が出ないから(んなバカな!)舌先を噛んで血判を…(怖すぎる~!)」と、なんともトボケた、しかしその裏にはキラリと眼光鋭い百戦錬磨の軍略家“狸爺”その人!という感じですね。 左團次さんの将軍は目に珍しく、楽しく拝見♪ いつも気になるのは戦場の大将の履物。 毛皮のモカシンみたいな…あれって何って名前ですか?
我當さん@木村長門守は、着物に香をたきしめる粋さを持ち合わせた華やかな若武者には…厳しかったなぁ汗進之介さん@郡主馬之助との組み合わせも一因あり?!) しかし緊迫している場のはずなのに、なんともゆる~い雰囲気のやり取りが面白い演目なんですね。
亀三郎さん@井伊兵部亀寿さん@成瀬隼人正。 最近別々でのご出演が多くなっている亀ご兄弟を久々に並びで拝見。 松也くん@榊原越中守は…やはり最近は立役の方がキリリとして姿が良いように思います。 後ろにズラリと居並ぶ20名もの家臣は迫力☆

きのこグリーン 伽羅先代萩
関西では【花水橋】【対決】【刃傷】の場は久々の上演との事。 私、実はこれらは初見!(のはず…) いつも観ている演目の前後を観る事によって、より理解が深まり…いや~、すっごく面白かった!「まぁ~た先代萩?!」って思って、ゴメンなさい汗でした。
★花水橋
“佃の合方”って好きなんですよね~♪ コレ、三味線でテケテケ弾けたらカッコイイ!と思うのだけど。
菊之助さん@足利頼兼は伽羅の下駄が似合うまさに“伊達男”って感じですね。 お話の設定は足利家なんだけど、竹&雀の柄の着物=伊達家の人間(実際はネ)、というこういう隠し味?が歌舞伎は楽しいですね。 めちゃくちゃ強いお殿様で、別に愛之助さん@絹川谷蔵の助っ人も要らないのでは?と思うのですが~汗 愛之助さんの相撲取りってのも珍しい。
この殿様が陰謀で隠居させられ、幼い息子・鶴千代が足利家の当主になるのであった…という部分だけの繋がりですが、悪党が怖さに押されてマッサージしてみたり、地図にされて道の説明に使われたり(←コレよくありますね)…となかなか楽しい一幕。
★御 殿
藤十郎さん@乳人政岡は何度も拝見していますが、今回が一番胸に迫るものがあり泣けました。 化粧が汗で落ちる様が両目から“赤い血の涙”を流しているようであり、腹のそこから絞り出すような慟哭に息をのみました。 「よく死んでたもった、でかしゃった~!」「有り難い、かたじけない、有り難い、かたじけない…」は、あまりの力強さに完全に“おっさんの声”になってましたけど汗 今回は【飯炊き】がナイ分、この場での注力が凄かったのかも? 先月に引き続き人間国宝に対して大変失礼ながら「当代・坂田藤十郎って凄いよ!」と改めて。
仁左衛門さん@弾正妹八汐は…怖い。 見るからに悪女!という悪意に溢れた冷酷な表情に惹き付けられます。 「何をざわざわ~。可哀想に、痛いかのぉ~?」は残酷さに凄みがあり、引っ込みの“ニヤリ”で背筋ゾゾォ~ッ冷や汗
政岡と八汐の体型も対照的だったのは、すごく効果的だったように思えました。
小川真生ちゃん@ 鶴千代は…ん~、ちょっとこの主君の為には命は差し出したくナイなぁ~汗という感じの冷血な印象。 対して長亮太朗くん@千松は演技が細かくてビックリ。 毒菓子を口にした上、八汐に刺されたその腕の中では足がピクピクと痙攣するんですもの!! あんな苦しみを見せられると政岡ママでなくても、たまりません悲しい
★床 下
松緑さん@荒獅子男之助に、仁左衛門さん@仁木弾正。 ただただ奇麗です…。 これほどまでに場の空気を支配して悠々と妖しく去って行く弾正なのに、次の場ではお白州に座っているって…カッコ悪~汗 【床下】の後場が続けてあまり上演されない訳が解ったような気がします。
ねずみが足からすっぽんに飛び込んだのには驚きました。
★対決・刃傷
菊五郎さん@細川勝元はスッキリとした裁き役。 傷を負いながらも左團次さん@渡辺外記左衛門愛之助さん@渡辺民部親子(珍しい組み合わせの親子だ!)に弾正へとどめを刺させ、また薬を飲ませたり、宮中内移動にも輿を用意させたり…と懐の深いお殿様の計らいにビックリ
渡辺外記左衛門が上状をいただく時、裃の差し込みを外して書状を挟んで受け取る…というのは作法なんですか? 血で手が汚れていたからたまたまこの場では…なんですか?
遺体となった仁左衛門さん@仁木弾正は“大の字”のまま頭上高く担ぎ上げられて退場。 これが絵になってカッコ良く“仁木弾正=カッコイイ役”という面目は保たれた…ような?