夏祭浪花鑑【大阪平成中村座】

「大阪でやるんだったら絶対この芝居を!」と勘九郎さんが熱望しての上演となったそうで、その意気込みはド肝を抜いた演出と、それをあます所なく演じ切った役者陣、スタッフに熱意に現れ、観客にビンビン伝わってきて…ラストは小屋全体が揺れるようなスタンディングオベーション。  歌舞伎でこのような体験をしたのは初めてだったので、今後この演目を他の小屋で観た時に何かモノ足りなさを感じるのでは?という一抹の不安もあるような…そんな衝撃的な舞台でした。

長町裏の場

コクーン歌舞伎での演出が踏襲されているそうですが…、私は初見でしたので、蝋燭の灯りだけで照らしだされる勘九郎さん@団七久郎兵衛笹野高史さん@義平次の、この“泥場”は衝撃的でした。 本当の殺人現場を目撃しているような、固唾を飲んで見守るような…そんな感じでした。
この場では見得が13回あるそうで“殺し場の様式美”とでもいうのでしょうか?  祭りの音楽の高鳴りにつれ、髪を振り乱し、白い体には一面の刺青と真っ赤な褌。 その姿が見得を切る度に蝋燭の灯りで暗闇から切り取られ、陰惨な場面 ながらも、色彩美や型に「綺麗…」と思ってしまいます。
特筆すべきは笹野高史さん@義平次でしょう! 臭ってきそうな汚いこしらえに加え、鶏ガラのようにヤセ細った様が、目を異様にギラギラと際立たせ、地獄から這い上がってきた餓鬼…とでもいいましょうか?  笹野さん、という役者さんではなく“金の亡者”の化身が目の前に確かに居ました! スゴイ!

祭りの音楽も最高潮に達した時、舞台奥の幕がサッと降りると暗闇が一瞬にしてまばゆいばかりの明るさ! 「えっ?! 一体何が起こったの?」と目をこらすと、舞台の奥には公園がスッポンポンに見えているではあ~りませんか~~!!(中村座は扇町公園内に建設) 福島天満宮地車講社中のお囃子に合わせて、祭りの衆が舞台や小屋の外いっぱいに踊り出ての演出ド肝を抜く演出。 スゴイ~! ビックリ~!

屋根の場

義平次殺しの追っ手から逃げる勘九郎さん@団七久郎兵衛を橋之助さん@一寸徳兵衛が手助けをしながら、応戦していく立廻り。 ミニチュア版の建物が舞台狭しと並べられ、二人ともさながらガリバーのような感じで次々と見得を切っていく。 その度に黒子さんたちにより建物の配置が変えられたり、はたまた二人の人形までが飛び出して大屋根の上で立廻ったりと息をもつかせない…と、思っていたら!

な、なんですとぉ~! 追っ手から逃げる二人は舞台奥へダッシュすると、またまた幕が切って落され、公園がスッポンポ~ン! 舞台から飛び出した二人は小屋の裏の階段を走り降り、公園に向って一目散に走っていく~! ついに二人は観客の視界から消えました。 すると…小屋全体がやんや、やんやの大騒ぎ! 手拍子の“戻って来いコール”の嵐となりました!
観客総立ちの舞台に戻ってきた二人は…団七と徳兵衛ではなく、勘九郎さんと橋之助さんになっていました。 そこで一気に出演者一同が舞台に出てのカーテンコールへとなだれ込み。 う~ん「ニクよこの!ド根性ガエル!」って感じの演出でした。

法界坊【大阪平成中村座】

平成中村座への遠征の機会をず~っと伺っていたものの、なかなか都合が合わず悔しい思いをで見合わせておりました。 平成13年の【義経千本桜】の試演会の様子を伺っていましたので「今度、小屋が建ったら、何処の地でも遠征して試演会まで観る!」と心に決めていましたので、念願叶ったり!だったんです♪
「小屋自体は“八千代座”みたいな昔の芝居小屋の再現なんだろうなぁ…」と、イメージはできていたんですが、開演前や幕間などにも役者さんが客席や小屋の外までこしらえのまま出てきての楽しい演出には驚かされました♪ 特に【夏祭浪花鑑】なんて、小屋の外で喧嘩が始まって…それが舞台の開幕へと繋がるのでたまりません! “芝居を楽しんでもらおう”という興行側の熱い思いがひしひしと伝わってきましたが…ホントは演じるご本人達が一番楽しんでいるのではナイでしょうか~♪という感じでした。

法界坊

前回の舞台を映像で観てはいたのですが…やっぱり“ライブ”は違う! “笑い”を含めた演出はそのまま踏襲されているのですが、また笑えました。
今回はやはり“二人の怪優”に目が釘付け!  まずお一人目は…亀蔵さん@番頭正八。 前回より更にパワーアップした弾けぶりで、その様子は“エクソシスト状態”と称されていました?!
悪事をとがめられてハッ!と口を閉じるところでは両頬をリスのようにパンパンにふくらませるのですが、漫画キャラのようなお顔で大爆笑! 扇雀さん@おくみさんへの迫りぶりは、もう…常軌を逸しているとしか~。 で、その後に勘九郎さん@法界坊と熱烈な熱いキス! 舞台に上がると人格が変る…という役者さんは数多くいらっしゃるでしょうけど、亀蔵さんはその最たる部類に入るのでは?!
そして…お二人目は笹野高史さん@山崎屋勘十郎。 まずは“中途半端な白塗り”で笑いを取り、側転で身のこなしの軽さで驚かせ、そして“連続カンニングペーパーの場”?!では共演者達をも笑いに引込んで、場内は大爆笑! 毎回、どこかしら意表をついた所にカンペを仕込んでいるらしく、取り上げられても次から次へと出てくる出てくる~。
テレビではあまりコメディタッチのお役で拝見した事がなかったので、驚きでしたが…“54歳”という年齢に一番驚きました?!
あと、芝のぶさん@野分姫は、浮世離れしたおっとりした雰囲気がよく出ていて好演でした♪
法界坊名物?“日本一低い宙乗り”では、上手の一番端のお席だった私の上に勘九郎さん@法界坊&野分姫の霊が垂直に降りて来て…私、スッポリとお着物の中に入ってしまいました!
法界坊と野分姫、二人も殺されてしまうお話なのに…「あ~、笑った、笑った~」という感想で…いいのかしらん?

双面水照月

橋之助さん@甚三郎女房おさく。 私、自分の記憶によると…橋之助さんの女形って映像でも観た事がなく、今回が初見でしたので衝撃的でした!
スッポンは人力なのでカクカクカク…と上がってくる様が、なんか“ゼンマイ仕掛けの人形”をイメージさせ、より妖気を醸し出していたような印象を受けました。
今回、衣装の細部まで観る事ができましたが、霊とおくみ、松若のお着物の紋は三人が手にしている“葱籠”なんですね! 細かいなぁ…。
いつもながら小山三さんのソツのない素晴らしい後見に見入ってしまいました。