東海道四谷怪談・南番【シアターコクーン】

便箋 南番
1994年第1回コクーン歌舞伎で上演された『四谷怪談』が新たに串田演出によってよみがえる…

安心して…というか落ち着いて観れる、って感じ?
具体的に「この部分が串田演出だな」と初見で明らかに判るようなものはなく、いわゆる古典歌舞伎の中のエンターテーメントの手法の面白さに改めて感心する、といった演出

特筆すべきは…といってもコレは北番も、だが勘三郎さん@お岩さん“薬を飲む一連の所作”は、やはり素晴らしい! 大切に大切に有り難かって一粒たりとも残さないように丁寧に飲む薬は、彼女以外は皆、それが毒だと知っている訳で、彼女が感謝の気持ちを口にするほど胸が締め付けらる。 そして、坊やの着物を手にして語りかけていた時に急に手に力が入らず取り落としてしまう。 ココが私の第二の涙腺決壊ポイント(第一は蚊帳で爪が剥がれるトコね) もう涙、涙…悲しい
伊藤家に談じ込もうと身支度する様は、顔が醜くなったとしても女性としての身だしなみをなんとかつくろうとする様がまた悲しすぎる。 元結が手が上がらず切れないため宅悦に切ってもらう…ココが私の第三の涙腺決壊ポイント! 顔だけでなく全身に毒は回ってるんだな、と。 あなたはもうすぐ死ぬんですよ、と…判ってしまう。
今まで観た中でこの場は一番激しくて胸元がガバッとはだけ、もう乳房が(ナイですよ)見えそうなくらいのその胸元はゴツゴツと骨が浮き出ている(化粧ですよ)様でお岩さんという女性の哀れさ、悲しい生涯を観るようで胸がとても痛くなった
今回、これほどまでにお岩さんに対して改めて「なんて薄幸な女性なんだ」という印象を強くしたのに対し、橋之助さん@伊右衛門が以前感じたほどの“とんでもなくイヤな男”に見えなかった(印象が薄かった)のは何故だろう?
「首が飛んでも動いてみせるわぁ~」の名セリフに「こいつホントどうしようもない悪だよ」という、いつも感じる憤慨の思いもなく…なんだかスーッと流れて行く感じで残念。

“隠亡堀の場”は本水を使用。 この場の前に、平場のお客さんに対し笹野さん+七之助さん@舞台番から“水よけの練習”指導があって、皆さんの息の合った防水シート使いが面白い!
ここで弥十郎さんと扇雀さんが歌舞伎役者のなりでトークに参加。 来年?再びNY公演が決定した事などの報告があり、一息つく場が設けられていた。
本水での“戸板返し”は、その補助の為にダイバーが潜ってて…「ソレ、私やりたい~」と、そのダイバー(ってか作業潜水士)ばかりが気になってしまった!!
戸板返しは…それなり早さだったが、水門から登場の与茂七への早替わりは改めてスゴイ☆ 早いっ! 全身ズブ濡れなのに、あのスピードで与茂七は…スゴイ~!!

“仇討の場”は…季節は冬??? “夏の悲劇”という演目という認識だったので、いきなりドカンと雪が降ってきてビックリ(コクーン三人吉三も観たかったな)!
本水を使っての立廻りは、コクーンだと舞台と客席がホントに近いので半端じゃなく水がかかるんでしょうね? 避けるのに必死で舞台をちゃんと観れないのでは?やっぱり椅子席で良かった…と思ったのはひがみです、ハイ汗
今回、二つのバージョンを観て思った総括的・個人的な感想は「勘三郎さん以外の役者さんが立っていない」という印象が強かった
今まで観た“チーム中村屋”のお芝居って勘三郎さんを中心にして、各々の役者さんの個性も意外な一面も上手く引き出されて好演…そしてお芝居全体が、小屋全体に熱気が充満している印象を私はもっていたのだが、今回は「勘三郎さんしか印象に残らなかった」
演目によるのかも…なのだが、ちょっと残念。
さ、勘三郎さんの次なる挑戦は何を見せてくれるのか? 楽しみ~

青い旗キャスト
お岩・小仏小平・佐藤与茂七:勘三郎/民谷伊右衛門:橋之助/お梅:七之助/按摩宅悦:亀蔵/伊藤喜兵衛・お熊・舞台番:笹野高史/直助権兵衛:弥十郎 /お袖・お花:扇雀ー

東海道四谷怪談・北番【シアターコクーン】

実は…コクーン歌舞伎は、昨年の【桜姫】が初見で、勘三郎さんがご出演の…となると今回が初めての観劇。
【東海道四谷怪談】は2002年9月の博多座公演以来の観劇で、この時、勘九郎さん(当時)@お岩さんに大泣きしながら深い感銘を受け『お岩さんなら勘九郎さん』な私。 久々の再会と斬新な演出で毎回話題の“コクーン歌舞伎”ではそのお岩さんはどうなるのか?が興味津々で観劇。
そのコクーン歌舞伎、今回の演目は12年前に第1回公演として上演した【東海道四谷怪談】。
『これまでのコクーン歌舞伎の集大成』ともいうべき南番。 襲名後の新たな出発に向け「いつまでも“革新”でありたい」という勘三郎さんの思いが詰まった北番。 …という串田和美さんの演出による二つのバージョンが用意され、その比較も楽しみのひとつ。

便箋 北番
南番では上演されない“三角屋敷・小仏小平内”を上演。 洋楽を使用し、斬新さな演出がより顕著で革新的な舞台。

開演前や幕間には椎名林檎の曲が流れ、その気だるい歌声は天井からさがる大提灯の不気味な雰囲気と妙にマッチしている。
洋楽…は、私見としては『ハマっている所もあれば、厳しいところもある』かな? わざわざそこは効果音を鳴らさなくても~と耳障りな部分も感じたのは確かだけど、両袖の屋台倉?からチャリンと揚幕をあげてミュージシャンたちが演奏するのは目に楽しい
断末魔の鐘の音はさすがに古典に取って替わるものがなかったのか、そのまま使われていたので、改めて下座音楽?の素晴らしさを認識する気付きもあった。
舞台美術は…まず、巨大な仁王像にビックリ! アレって…造るの大変だっただろうなぁ、材質は何で出来てるんだろう?と気になってしばらく舞台に集中できず~汗 コクーンって、盆はナイの? その役割を担う板敷きに車輪が付いた上で演じ、大道具さんが袖からスライドIN~OUT~回転で大忙しの活躍の様も楽しい
また【欽ちゃんの仮装大賞】のごとく頑張る浪後見さんの活躍にうなる“隠亡堀の場”には「なるほど、そうきたか!」と思い、“大詰”では…「ほぉ~、そういう終わり方かぁ…」と意表をつかれて面白かった。
お子様の“遠見”は大変効果的に使われており、印象的。

勘三郎さん@お岩さんには…やっぱり泣かされた。 私の“涙腺決壊ポイント”である『蚊帳に取りすがって爪がはがれる』シーンでは、その指先がちゃんと真っ赤に染まっているのを初めて知り、その細かさに驚いた
どうやら奈落がナイ?舞台で“髪梳き”はどうやってするんだろう?と、いつも以上に固唾を呑んで観ていたが…判らない。 照明の光量の差か?不気味な暗さと、お歯黒のカネが口から顎に流れて見た目の怖さ倍増。 …ながらも悲しみをたたえているお岩さんに胸が締め付けられ…悲しい。
新悟くん@お梅は、過呼吸なのか?大げさに息を吸い込んで言う様に笑いが起こるが、しつこい印象が強く必要性を感じない。 が、ただひたすらに見染めた伊右衛門に「お前じゃ、お前じゃ」と熱に浮かされている様は微笑ましくもあり、怖さも感じることが出来た。
もう完全に“チーム中村屋”のレギュラー・笹野高史さんは、今公演でも何役も兼ねる活躍。 北番の伊藤喜兵衛は金ピカ成金で大袈裟にユーモラスな役作りで、笑えたけど…けど…、と今公演に関しては私的には「う~ん」
扇雀さん佐藤与茂七小仏小平と立役のニ役だったが、スッキリとした風情で…実は最近は女形より、立役の扇雀さんの方が好きかも。
“三角屋敷・小仏小平内”が上演されたので、より話の背景が解る事も最後に書き添えておかねば…という事と、このような斬新な実験的な?演出に挑戦する姿勢にやっぱり大きな拍手です。

青い旗キャスト
お岩・直助権兵衛:勘三郎/民谷伊右衛門・小汐田又之丞:橋之助/お袖:七之助/お梅:新悟/秋山長兵衛:亀蔵/伊藤喜兵衛・按摩宅悦・お熊:笹野高史/四谷左門・仏孫兵衛:弥十郎/佐藤与茂七・小仏小平:扇雀

桜姫【シアターコクーン】

初のコクーン歌舞伎観劇でした。 ここ最近、渋谷なんて近づいた事もなかったし、スゴイ雨が降っていて…駅からBunkamuraまで迷いました冷や汗
平場席の一番後ろのお席でしたが、シアターコクーンの小屋自体がどこでも観やすく規模も手頃な素敵な小屋なんですね。 また別の演目でも訪れてみたくなりました。
“コクーン歌舞伎”ならではの舞台美術や演出は、前作までの数作品を映像では観ていましたが、実際にその空間に身を置いて観るとその面白さは「やはり舞台は生で観ないと」と痛感させられる面白さ。
宇野亜喜良さんのイラストのタペストリーや引き幕の使われ方は私的ツボでした(大学時代、彼のタッチを真似したりしてた)。 コンクリートの打ちっぱなしのような舞台空間において、情景のイメージを助長してくれる効果で“イラスト(絵)”の持つパワーみたいなものを再認識
その他、見せ物小屋をイメージした雛壇、上部にあしらわれた欄干。 手法においての本水や宙乗り(宙降り?)、口上、音楽の使われ方…に、いちいち「へぇ~」と興味深く刺激的☆
あさひ7オユキさん@口上役は…ご覧になった方、いかがでしたか? この演目を初めて観る人には親切なナビゲーターのような気もしますが、私的には話しの流れ…というか、舞台に、その世界にグッと入って観ていたのに、現実空間に引き戻されるような“観劇の緊張感・集中力”が途切れる感じが強かったです 朝比奈尚行さん@音楽構成としては好きでした。 特にラストの音楽は印象的~。
役者さんは…
福助さん@桜姫。 私的には、元々色っぽいイメージが強い方なので清楚な赤姫から、色事に堕ちてゆく…という落差が弱く感じられ、“姫言葉と庶民言葉”がちゃんぽんになる部分も笑えなかった。ラスト、権助を刺すシーンでは…酔って寝ている彼にすがって泣く部分は「おっ♪」と新たな解釈に驚き、繰り返し刺すところは彼女の心の葛藤がより鮮明に伝わってきました
ラストの演出についてはいろんな解釈があるでしょうが、私的には…仇討ちを果たし、その男の血を引く子供を殺し、お家の重宝を取り戻して「一件落着~」という、あっけらか~んとした「んなバカな~」という歌舞伎的な部分が好きなので…ん~。
子供を殺したのか?という部分もちょっと解りずらかったし、あの踊りで「何を表現したかったのか?」という部分が難しかったです。
橋之助さん@清玄&権助。 意外にも?清玄の方が好演の印象。 特に毒を飲まされ死ぬシーンは固唾を飲んで見守る感じでした。 このシーンでの鬘や拵えは定番のものより、こちらの方が好みだわ。
弥十郎さん@残月+扇雀さん@長浦。 達者な演技に笑いました。 けど…舞台の進行に従ってクドい印象が強くなりました。 扇雀さんの乳房もあらわな裸は…必要ですか?
勘太郎さん@悪五郎&お十。 悪五郎。 私、勘太郎さんの赤っ面って…初めて拝見したかも。 先月の梅王丸でも思ったけれど、隈を豪快に取った荒事のようなお役でも魅せてくれますね! ユーモアテイストも程よい程度で好演でした
お十は、赤子の扱いが手慣れた感じでオドロキ~。
観劇を終えて思ったことは「筋を知らない人が初めて観て、この舞台はストーリーが把握できたのか?」という事でした
…と言いつつも、なにはともあれ“初のコクーン歌舞伎”観劇。 満喫しました♪