さらば、わが愛~覇王別姫~【シアターコクーン】

自分が命を終える時『この人生で観た映画BEST10を挙げろ』と言われたら、必ずや上位ランクインするであろう【さらば、わが愛 ~覇王別姫~】(1993年公開・第46回カンヌ映画祭パルムドール受賞)。 公開時に数回映画館に足を運び、その後TVやDVDで…もう何度観たか判らないほど観ている大好きな作品なんです。
その作品公開から何故このタイミングで舞台化…しかも日本で、と言うのが謎ですが「これは観ておかないと!」と観劇決定☆ 大好きな作品だけに不安も大きかったのですが、蜷川幸雄さんの演出、宮川彬良さんの作曲での音楽劇であの3時間近くもある壮大な作品をどう舞台化するのか?という興味の方が勝りました!(休憩なしの2時間)
客席に入ると「長崎ランタンフェスティバルか?!」ってな感じで、歌舞伎座客席の提灯のごとくランタンがズラリと飾られており赤々と火を灯し、素舞台の上では京劇チームがウォーミングアップ中で気分は途端に中国へ☆ このような地道な日々の練習があってこそのあの超人的なアクロバット妙技が出来るんだなぁ…と開演までその練習風景を観客は楽しむ事が出来る趣向。
子供時代
小豆子(後の程蝶衣)が指を切り落とそうとする母親から逃げまどうシーンから始まるオープニングのスローモーションが素晴らしい! 真っ暗な舞台に一筋の道のようなライトが一本当り、舞台奥から手前に段々と迫る動きに加えて両サイドから白い紗の幕がユラユラと風にあおられて幻想的。 スコーンと舞台の世界に引き込まれました。 京劇チームずらり居並ぶ型のパフォーマンスには無駄な肉が全くナイ綺麗な肉体に見とれてしまいます。
小豆子が京劇俳優養成所に預けられ、石頭(後の段小樓)に助けてもらいながら共に【覇王別姫】を演じるトップスターとなったところから初めてセリフが始まります。
楽屋の化粧台が舞台奥から一列で押し出され(またしても鏡ズラリ~)そこにポツンと座る東山紀之さん@程蝶衣。 この過去の回帰と現状を上手く説明する辺りの演出に「上手いっ!」と膝を打ちました(何様ですが)。 この化粧台の美術がすっごく凝っていて、小道具チェックが楽しかったです♪
総体的には「映画を観ていない人に…果たして解ったのだろうか?」という印象。 蝶衣の小樓への想いと菊仙へ対する激しい嫉妬心。 日中戦争や文化大革命など時代の波にまでも翻弄され“生きていること=傷付くこと”のような蝶衣の孤独や焦燥感を描くには…この上演時間ならこれで精一杯なんでしょうね。 アヘンに溺れて禁断症状に苦しむ様は「この時期スイカなんて一体いくらするんだろ?」と下世話な考えもしてしまった意表を付いた演出でしたが“アヘンで苦しんでいる”という肝心の事が伝わったのか?というのは謎でした。
そして何より『音楽劇である必要性が感じられない』のが最大の不思議。 キャスティングありきならばストレートプレイの方がよっぽど…汗 音楽劇ありきであれば、もう少し歌える人を~、と強く強く思いました。
よつばのクローバー 東山紀之さん@程蝶衣
凄くすご~く頑張って、努力されていた様は伝わってきます。 全身全霊!全力投球の気迫は充分に感じられるのですが…厳しかった。 あのスッキリしたお顔に女形のメイクは映えそうな印象だったのですが、意外にゴツくて綺麗じゃないうえ、所作がどうしても硬い上、表情が全て同じに見えてしまったのが残念。 気持ちを内に秘めるお役ですが、それがポーカーフェイスすぎて蝶衣の心の揺れが伝わって来ずらい。 歌もジャニーズでは…なんでしょうけど、蝶衣のセリフとしては響くものがなく。 自分が拾った養成所の後輩の涙を拭うシーンと、袁世卿とアヘンを吸い合うシーンが印象に残りました。
よつばのクローバー 遠藤憲一さん@段小樓
東山さんを包み込んでしまうほどのタッパと逞しいビジュアルは役所にビッタリなのですが…残念。 千穐楽間近という事で声が枯れていらっしゃるのか?元来そうなのか?は謎でしたが、セリフが全てにおいて聴き取り辛い! 歌ともなると声が小さい上、全く聴き取れない! 文化大革命時の糾弾において菊仙を裏切るシーンがすごく唐突な印象でした。
よつばのクローバー 木村佳乃さん@菊仙
私、鞏俐の菊仙がホントに大好きなんです。 なのに…なのに~悲しい 個人的には木村佳乃にはいつも好きなキャラクターを壊されてしまうんで要警戒なんですが今回もそれにハズレる事なく…。 もっと程蝶衣との“女同士?のバトル”を見せて欲しかった。
よつばのクローバー 西岡徳馬さん@袁世卿
もっと不気味な嫌らしさがあっても良かったのでは…と思いました。 深く傷ついた蝶衣を擁護する包容力は充分
ラストはオープニングを再びなぞる演出となっていましたが「一体どこまで繰り返すのよ~?」とちょっと長く感じてしまいました。
もし再演があるとしたら、キャストは総入れ替えで観てみたいです! 菊之助さん@程蝶衣、いかがでしょうか?

NINAGAWA十二夜(考察:安藤英竹について)【博多座】

2005年7月、好評を博した歌舞伎座初演からの再演となる今博多座公演。 再演にあたり新たに手が加わった部分も所々にあり、上演時間をトータルすると多少短くなっているようです。
私は初演の舞台は映像でしか観ていないので、画面に映っている部分でしか比較が出来ないのですが…「なるほど、あそこはカットしても充分通じる♪」とか「コレを加えて解り易くなった☆」とか「こう変えてきたか~」「ん…前の方が好きかも?」というような発見も楽しく、今観劇のポイントのひとつ
冒頭の船が遭難する部分のスペクタクル度UPと、洞院と庵五郎が、獅子丸と英竹をたきつけて決闘をけしかける…二人のへっぴり腰っぷり(特に動揺してすっかり女の子になっている獅子丸)にお笑い度が高くなっていて、ここは改訂GJグッド
ナルシス安藤英竹ほぼ初演時の役者陣の再登板!という中にあって、右大弁安藤英竹が松緑さん→翫雀さんへ。 初演時には「あのような道化役を松緑さんが!」という意外性も手伝って、大変好評だっただけに、この度の配役には…私、翫雀ファンとしてはまさかのキャスティングに“めちゃくちゃビックリ&多いに不安”でありました。 …というのは元来、愛嬌ある道化役…というのは翫雀さんのハマる所とするだけに、松緑さんに感じた意外性には欠けるし、この座組とのコンビネーションの程が推量できない~。 そこへ初演をご覧になっている方からは「翫雀さんの英竹はどう作ってくるのか?」という注目度はどうしても高くなる訳で…。
…な、訳で以下は翫雀さん@右大弁安藤英竹の感想のみ! どうしても贔屓目が激しく入ってしまっているので、それを差し引いて…宜しくです汗
作りは…いかにも娯楽と快楽、オシャレにふけり、自分を恋の達人色男と激しい勘違いをしているナルシス阿呆公家風情。 松緑さんほど道化っぽく作っている訳ではなく、一応キレイなお公家さんで、首元にはラメ入りのスカーフを巻き、髪にはメッシュを入れている…という“かぶき者”。 仏国?の言葉が得意との設定故か(洞院のセリフより)所々に“フランス語っぽいセリフまわし”の、見事なまでの空振りのキザっぷり。
故に前半は洞院と麻阿からもバカにされている…という印象は薄く、三人が悪巧み遊び仲間、という感じにも取れて道化ぶりが薄く感じるので、物足りナイような。 “織笛姫、好き!好き!”という感じが弱いので、後半、姫を巡って獅子丸に決闘を申し込む下りが唐突に思えるような気がしました汗
重装備・安藤英竹後半、庵五郎が登場してからは、洞院+麻阿とこの三人からも弄ばれている様が強くなり、初演の英竹のスタンスへ。
獅子丸にたたきつける果たし状の文面は初演のままなれど、自分の書いた素晴らしく勇ましい文章に酔いしれているナルシスっぷりはひどく滑稽で笑える~。
決闘を挑む拵えの重装備っぷりに、その臆病の様が伺えて面白いっ! 装備が重過ぎてか?体型からか?(失礼!ファンです)息切れ具合も激しくて、コメディ度UPグッド
これからも舞台を重ねるにつけ試行錯誤されながらどんどん進化していくのでしょうから、また千穐楽近くには違った印象になるのかもしれません(現時点では初日+9日観劇)。
思ったのは、この右大弁安藤英竹という役所はそのキャラクターを固定せずに、その時、その時に演じる役者さんの個性に合せてカスタマイズしていくタイプのお役となっていくのでは?と。
またのNEW英竹の登場も楽しみに待つ希望が持てる、今再演の成功!となりますように…。