三国一夜譚【博多座】
通し狂言【三国一夜譚】は3年前の平成14年9月、大阪松竹座で初演された新作歌舞伎。染五郎さんが題材を発掘?し、中心となって若手花形のアイデアをまとめ、新進の歌舞伎作者である今井豊茂さんが脚本化、猿之助歌舞伎の重要なスタッフである奈河彰輔氏が補綴(てい)・演出し、大好評を博した…そうです(博多座往来より一部抜粋) 当然私は今回が初見でしたし、この再演時にあたって大幅に内容を変えた…との事で期待大!
公演前には、演目縁の住吉神社で成功祈願のお練り、女性記者のみを招いての記者会見、そして公演中には【KABUKI NIGHT】などイベントが催され、若い女性に歌舞伎の魅力の訴求になったのではないでしょうか? …とはいえ、私は三回観劇したのですが…いずれも宙乗りが気の毒なくらい二階客席が赤くて…涙。 『二月、八月は難しい』とは興行や商売では定説ですが…ちょっと悲しすぎました。
発端・序幕
冒頭、花道七三で物語りの発端を染五郎さんが口上。 「助けた亀に連れられて…とは、どこぞのお話で聞いたような…」と、ユーモアたっぷり。 大亀+子亀の動きも細かく、海好きの私としては一気に舞台に引き込まれた!
“雅楽”には全く馴染みがナイのだが、独特な音色と…衣装の色・柄の美しさに驚く。 染五郎さん@富士太郎、愛之助さん@浅間左衛門の“雅楽・知ってるクイズ”合戦は聞いてて「?」だったが、やり込められてギリギリと悔しがる左衛門の表情が、今後の仕返しを容易に想像出来、その悪役ぶりで好演。
今回、誰しもがMVPに秀太郎さん@浅間母卯原を挙げるだろう! 息子への愛情の注ぎ方は人を殺してもなんとも思わないほどの溺愛ぶりで、極端なまでの行動は客席の笑いを誘う。 秀太郎さんご自身も、珍しい悪役を嬉々と演じていらっしゃるご様子で、観ていてホント楽しかった!
【道行廻歳響仇鼓】では、富士太郎親子が父親の敵を探し求めて長い歳月を放浪する様が実によく演出されていた。 セットの移り変わりや、清水大希くん@叡太郎の成長ぶり、季節の移り変わり…。 【雪だるま→花かご】に変わるという仕掛けは“欽ちゃんの仮装大賞 ”からヒントを得た染五郎さんのアイデアらしい。 大希くんとしては博多座出演はこれで最後の公演となった(中村鶴松襲名のため)
二幕目
個人的には高麗蔵さんの博多座出演時には「高麗蔵さんなのに、もったいないっ!」と思ってしまうキャスティングでのご出演がここ数年多かっただけに、嬉しい奮闘公演。 高麗蔵さん@遊女波路は富士太郎の妹小雪でありながら、知らなかったとはいえ自分の父親の敵・浅間左衛門を愛してしまう事から悲劇が始まる。 左衛門は小雪が富士太郎の妹だと知って利用しているのだが…。
吉弥さん@遊女浪江は腕に“照様命”と彫り物をして、一途に想っている様が激しいまでの嫉妬の感情によく現れていて好演。 いつも歌舞伎の“○○命”という入れ黒子は「もうちょっとお洒落なデザインで入れればイイのに…」と思っていたが、あれは想う相手に書いてもらった…その筆跡のものを彫る、という事を後ほど知った。 想う相手が字が下手だったら…入れるのに躊躇しそうだなぁ~。
追っ手を逃れるための秘策として、卯原が左衛門に用意したのは“白髪になる薬”。 そしてその解毒剤が“疱瘡にかかった幼子の生き肝を食べる”という…なんとも突飛すぎる薬て爆笑。 卯原とはいろんな薬を調合できる薬剤師さんなのか? 「疱瘡?ほぉ~そぉ」と軽くウケてたった秀太郎さん、面白すぎ!
大詰
行方知れずとなった息子の安否を気遣いながら、染五郎さん@富士太郎と亀治郎さん@妻桜子が楽器を演奏するのも今回の見所のひとつ。 太郎は篳篥を、桜子は琴の合奏となる訳たが…亀治郎さんの琴の演奏、恐かった。 ものすごく力強い音色で…悲しみにくれる母親、ではなかったわ。 篳篥は音を出すのも難しいらしく、上手い下手は判らないがあんな地位さな笛なのに劇場全体に聞こえる音量には驚いた(マイクで拾ってた?) で…その夫婦の合奏シーンから、何故か突如として龍宮殿にいる二人。 悲しみにくれる音色を聴いて、冒頭で太郎が助けた亀が恩返しとして、息子の行方と玉手箱を渡すため呼び寄せたのである。
ココは染五郎さん@富士太郎→龍宮の皇女、亀治郎さん@妻桜子→龍宮の皇子となる数回に渡る早替わりが楽しく、客席からは驚きの歓声と拍車が起こる。 私は…海のシーンなので大満喫! 愛之助さん@亀大臣は、ニヒルな美形悪役から一転しておとぼけ爺キャラでなんともツボ! これは博多座演出で初登場らしい。
左衛門と共に逃げ、女房となった高麗蔵さん@女房お浪実は妹小雪に辛くあたる秀太郎さん@卯原のなんと憎々しいこと! もう可笑しいくらいなのだが、左衛門も一緒になって辛くあたるので「いつの世も嫁姑問題は大変なんだ」と妙にシンミリしてしまったり~(未経験ですが)
卯原の最後は壮絶! 息子の容貌を元に戻そうと疱瘡にかかった叡太郎に襲いかかるのは、大希くんが気の毒なくらい大迫力。 でもって富士太郎に首を撃ち落とされるのだが、これがまた“欽ちゃんの仮装大賞”からのアイデアで、首がストッと落ちる趣向。 しかし首を落とされてもまだしゃべっている卯原は「首が飛んでも動いてみせらぁ~」の民谷伊衛門もビックリの執念であった。
父の敵も討ち取り帰参も叶ってめでたしめでたし…なのだが、その時、門之助さん@足利義満が与えた名前『三国一富士太郎和一』に、なんだかなぁ~。 そんなセンスがナイ名前、もらって嬉しいかしら?
ラストの正面は各キャラクターにピンスポットが当たって色彩も美しく幻想的でとても印象に残った。
三回の観劇を経て思ったことは『主人公の陰が薄い』ということ。 板に載ってる時間は当然長いのですが…こんなにも印象が薄い主人公って?と不思議だった。 しかし全体としては様々な趣向が凝らされていて、作り手の心意気が感じられた楽しい作品だった…だけにもっと多くの人に観てほしかったなぁ。
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