寿初春大歌舞伎・夜の部【松竹座】

通し狂言 霊験亀山鉾

国立劇場での観劇の興奮からはや7年も経っていたとは~!という驚きが大きかったです。 もう、そんなに経ったの?! 私の年齢も+7才って事よね…間違いなく。 国立劇場での公演としては異例の大人気・大盛り上がりだったと聞く前公演でしたので、再演は早いと思っていましたが…7年ですかぁ。 そして関西では77年振り!だそうで、まさに幻の復活狂言!
棺桶からバーン
国立劇場って舞台写真が翌月の筋書きにチラりと入るだけだから、前公演時の写真は全く手元になく、とにかく火にかけられた棺桶から仁左衛門さんがバーンと登場したヴィジュアルインパクトに全部持っていかれて、他があまり印象に残っていないのが正直なところ汗 今回は曖昧な記憶を辿りながら「あ、そうやった、そうやった」という感じで観劇。
翫雀さん@掛塚官兵衛の愛嬌ある悪者ぶりが楽しい♪ 馴染みの扇雀さん@芸者おつまにデレデレして、他者とムキになって取り合う様など“小物のワルだなぁ”って感じがありありで笑えます。 お尋ね者の藤田水右衛門を自分と名乗ってみせ「水右衛門は鼻筋通って、目が鋭く、苦みばしったイイ男…いや、違うな!」飛脚に一蹴される様に爆笑。

扇雀さん@芸者おつまが、源之丞に本心を書状にしたためるシーンは片岡十二集のひとつ【鰻谷】のパロディ…との事ですが、私は元ネタを知らずに残念汗 天紅の書状をクルクルと広げながらサラサラと手紙を書くおつま…扇雀さん、スゴイ!達筆! 本当にサラサラと書いていらっしゃいました(扇雀さんは本当に字がお上手ですよね) “襟元の中=金のある男に従うこと”という意味は初めて知りました。
秀太郎さん@丹波屋おりき、衣紋抜き過ぎ~、前合わせ開けすぎ~汗
安倍川返り討ちの場では、人足が掘った穴を「よしよし♪」確認する翫雀さん@掛塚官兵衛に「絶対この人、自らも落ちるな」と思っていたら…期待通り! しかも川にザブ~ンのおまけ付き♪で、手を叩いて喜んじゃいました、私
愛之助さん、源之丞~袖介の早替わりは見事!ダダッと花道を走り出る勢いもあってこれは天晴れな早さで拍手~♪
水右衛門が背後から忍んでくる際には「志村ぁ後ろ!うしろ~!状態で、だんまりが始まり、段四郎さん@仏作介が初登場。 私、ご出演を知らなかったのでビックリ! 段四郎さんが大阪のお正月公演にご出演って珍しいですよね?
お決まりのじゃかになると上手の川には、本物のじゃかごが二つ。 実際のものはあんな形をしていたとは~、と初めて知った次第。
【焼き場の場】は…前回の国立公演でも本水を使った雨でしたっけ? 下にシートを敷いてあるだけでジャンジャン結構な量が降ってくるので驚きました。 油地獄のように、濡れた状態で陰惨な殺し場ってなんだか艶かしいものがあるような…何か色っぽい感じがするのが不思議でした。
火にかけられた棺桶の火がいよいよ強く『ファイヤ~!』となった時、客席が「うぉ~っ!!!!!」とボルテージが上がったのが面白かった♪ 棺桶をヴァカッ☆と砕き、中から水右衛門出てきてトドメをさしながら殺した人数を指折り数えるのはなんとも残忍で…でもカッコイイ。 これぞ色悪!
今公演で驚いたのは中幕【春寿松萬歳】。
おどろおどろしい演目にあって、箸休め的な華やかな一幕でしたが…必要でしたか? せっかくの緊張感が途切れてしまったような、残念感が私はあったのですが~汗 ご覧になった方、どのように思われましたか?
しかし、藤十郎さん@萬歳の艶やかさと若々しさには改めて驚愕し目を見張りました。 “常若(とこわか)=永遠に若々しい”という意味だそうで“一生青春”が座右の銘の藤十郎さんにふさわしい一幕ではありました。
歌舞伎の演目では『○○○の生き血を飲むと、病が平癒する』というのがよく出てくるけれど、一体どのような根拠があって、そうすれば治るって事になってるんでしょ? 「んな、バカな!」「もし命がけで生き血を提供して『あら?効かない~』だったらど死に損じゃん?!」と劇ツッコミしちゃいます汗
吉太朗くん@源次郎は、見た目は間違いなくお子様なんだけど、なんだか顔だけ大人みたいでちょっと不思議な違和感。 セリフ回しも通常の子役とはちょっと違うトーンの印象を受けました。 “手習い”はちゃんとお手本をめくってはいるものの、全く見ずに黙々と書いている所がご愛嬌♪
孝太郎さん@お松に「祝言♪祝言♪ もったいないやら、嬉しいやら~☆」とめっちゃ喜ばせておいてバーンと突き落とすのがなんとも残忍すぎるぜよ秀太郎さん@貞林尼! 「これがそなたの夫」と位牌を出すなんて…どんだけ残酷。 自らを刺してから息絶えるまでが長い、長過ぎる~。 だって肝臓刺して血を絞りだしてんだよ! 孫の足の平癒を見届けるまで…なんて凄い生命力の老婆だよ。
町並みの道具幕綺麗ですね~♪ 大詰めは傘鉾が出てきて、果たし合いの背後でその鉾が賑々しく行く買う様は【夏祭浪速鑑】の、だんじりと絡むラストに似ているような気がしました。
“仇討ち(敵討ち)”というのは目下が目上の者に対して許されたけど(ex=弟が兄の敵討ち)、その逆はNGで法律で裁くしかナイ…というのは今回初めて知りました。
こ~んなに面白い演目なのに、なんで上演機会が少ないんでしょうか?
面白かった~♪

七月大歌舞伎・夜の部【松竹座】

熊谷陣屋

最近やたら観ている印象ですが、松嶋屋+成駒屋のみの関西勢で演じられた今舞台は独自の部分もあって興味深く拝見
まず仁左衛門さん@熊谷直実の裃がすっごく奇麗で目を奪われました☆ 亀甲模様のベースのそれぞれの配色が“日本の伝統色”のカラーチップを散りばめたような…カラフルなんだけど渋い色合いでホントに奇麗~♪ 胸元の家紋“向かい鳩”も金糸の刺繍で立体的で素晴らしい細工。 これはご自身で誂えたものなんでしょうね?
孝太郎さん@藤の局熊谷の陣屋に助けを求めて転がり込んで来る…というくだりは、私は初めて観たような。 この前置きがあるからこそ藤の局が突然姿を現して斬り掛かる~という所が「あんた誰?」感がなくてイイですね。
熊谷直実が我が子の首を三段まで持って進み出て、それを秀太郎さん@相模はよろめきながら立ち上がり、三段を途中まで上って受け…夫婦揃ってその首を持ちながら見つめ合い涙する所は、胸を締め上げられるような悲しさが伝わってきました。 こんなに長い時間、我が子の首を手にして嘆く相模は初めて観ましたし、納得できない無念さがより伝わってきましたし、忠実な家臣とはいえやはり愛情深い父親であった直実の我が子と別れ難い悲しみをこの時点でより鮮明に伺う事が出来ました。
藤十郎さん@源義経の「解った、そういう事にしておこう」という度量の深さに加え、直実夫婦の悲しみに深い哀れみと同情している様が伺え、何故かしら義経の表情を観て泣けてしまいました悲しい
これらの濃厚な芝居の中、我當さん@白毫弥陀六実は弥平兵衛宗清のセリフ回しだけが個人的にはちょっと浮いているように感じられたのが唯一残念。 着物は“南無阿弥陀仏”柄?なんですね。
『同じ演目でも役者が替わればこうも違う』という、歌舞伎観劇の楽しさを改めて知らされた…という感じでした。

黒手組曲輪達引

河竹黙阿弥作の“世話の助六”で、至る所に【助六】のパロディが散りばめられた世話狂言。 私、これも初見の演目。 今月の松竹座の演目…実は私、初見のものが多かったのも今遠征を決行した一因なんです。
菊五郎さん@番頭権九郎花川戸助六の激しい落差の変身ぶりは楽しい楽しい♪ ここまでヴィジュアルも演技も鮮やかに演じ分け、どちらも充分な魅力で楽しませてくれる役者さんって…やっぱり当代は菊五郎さんがピカイチ☆ではナイでしょうか?
菊之助さん@新造白玉との道行き、花道の出では「菊之助さん、よく吹き出さナイなぁ」と妙な所で感心しながら、どえらい美人さんぶりに見とれました。
松緑さん@牛若伝次のメイクがやたら大衆演劇風だったのがひどく気になりました汗 不良っぽい感じを出そうとしての事でしょうか? 初めて観た化粧だな…汗
今演目の最大のお遊びはご当地ネタ大放出! 菊五郎さんって…あの【2001年宇宙の旅】のテーマ曲(クラシックの正式曲名は何でしたっけ?)好きですねぇ。 カモが黄色×黒ストライプ法被と鉢巻きを身につけて“トラガモ”で登場。 田之助さんは【大阪くいだおれ】閉店の8日までは“くいだおれ太郎”→閉店後は阪神タイガースのマスコット“トラッキー”。 そして團蔵さんはKFCの“カーネル・サンダース”で「ぐぅ~っ♪」。 團蔵さん“エド・はるみ”好きですねぇ。 只今絶好調の阪神タイガース、これらのキャラクターが今年また道頓堀で弄ばれるかも?!
この後「あ、これはあの場のパロディね」というシーンが目白押し!ですが、前半のインパクトが強すぎたせいか、サラリと流れた感じで印象が薄かったのは…演目全体としては良かったのか?悪かったのか?汗
立ち廻りにご当地仕様の“だんじり”が使われていたのは風情があって◎
印象的だったのは、亀三郎さん@朝顔仙平。 助六では朝顔モチーフ満載のとぼけた道化キャラ(大好き☆)ですが、こちらは気の短い怒りっぽい荒々しい厳めしい武士風情。 こんなタイプのお役の亀三郎さんを拝見するのは新鮮で、かつて歌舞伎の演目でここまで長いセリフをしゃべっているお役…というのは初めて拝見したような~?で嬉しい配役。 うん、やっぱり彦三郎さんに更に似て来た!
そして橘太郎さん@白酒売り。 睫毛まで白く塗っているので、なおさら“おじいちゃん”という感じ。 武士の横暴さにビクビクしながらも、言う事は言う!気丈さと愛嬌が。 ん~、やっぱり橘太郎さん、ラブリ~♪

羽 衣

幻想的な美しさを堪能する舞踏で終わるのか…と思いきや! 舞台機構がすっごく面白く、ラスト「うぉぉぉ~!」とおもわず声を出して感嘆してしまいましたっ! 松緑さん@漁師伯竜から、羽衣を返してもらった菊之助さん@天女が、天へ舞い上がる見せ方がソレ! 手前の松やの岩場がセリ下がると同時に、舞台奥から雲塊がセリ上がり…その上で羽ばたく天女は、まさに“天に舞い上がる”ように見えて面白い! これって…デフォルトの演出ですか? 先人の舞台演出の工夫には多々驚かされますが…いや~、感心しました!

団子売

ご当地仕様でセットは“天神祭”。 愛之助さん@杵造×孝太郎さん@お臼夫婦は、最初に頭巾と法被(正式名称は何て言うの?)を身につけているタイプなんですね。 私、この拵えがすっごく好きなので嬉しかったです♪ 私、観ているようで…意外と観ていないこの組み合わせの夫婦でしたが、色っぽいくだりに「あらま」というような仲睦まじさ見てとれた、軽やかな打ち出しでした。

七月大歌舞伎・昼の部【松竹座】

例年だと“夏に遠征”というのはあり得ない私ですが、今年は以前からすご~く観てみたかったミュージカル作品が宝塚大劇場でかかる!という事で心が揺らぎ~「あ、松竹座で歌舞伎やってるじゃん!」と気付きまして…決行!
数日前の7月8日に閉店した【大阪名物くいだおれ】の店先には、もはや“くいだおれ太郎”の姿もなく…いつも賑わう道頓堀がちょっと寂しく感じました悲しい
で、気がつけば私、図らずも…菊之助さん&亀三郎さんは5月より三ヶ月連続、橘太郎さんに至っては4月より四ヶ月連続の観劇となったのでビックリ! まるで追っかけみたい~汗(橘太郎さんはファンですけどネ)

植物 春調娘七種
先月の博多座も菊之助さん@曽我十郎祐成松緑さん@曽我五郎時致で拝見しているので、なんだか続きを観ているような不思議な感じ汗(拵えも全く同じだし)
歌舞伎を観ていると「何故この季節にソレなんだ?!」と季節感を全く無視した演目がかかるのが常日頃なんとも不思議に感じている私(夏に【紅葉狩】は拷問です!)。 日本の伝統芸能=四季の移ろいを楽しむ…みたいな、四季がある国だからこ今の季節を楽しむ=風流(=贅沢・娯楽)、かと思ったり…。 しかしそうなると演目がなおさら固定されちゃいますから…面白くナイんだろうなぁ~汗
で、この舞踏は正月の七草粥の準備を…という設定。 孝太郎さん@静御前は、赤姫が頭に手ぬぐいを…って他では観れないですよね。 ひとりお澄まし姉さん、という感じでしたが…艶やかな一幕で、目が覚めました!

 第十四回【日本俳優協会賞】表彰式
幕間にいきなり式典が始まったのでビックリしました! 「今月は毎日あってるのか?!」と思いきや、本日たまたま…だったようですね。 式典の様子はコチラ
司会進行は鈴木治彦さん、プレゼンターは藤十郎さんと田之助さん。 受賞者の鴈乃助さん當十郎さんそれぞれに受賞の喜びをコメントされていた中、當十郎さんの十三代目さんとの思い出話にジ~ンときちゃいました。

便箋 血判取
自分のあやふやな記憶を辿ってみても…多分、この演目は初見かと。
左團次さん@徳川家康は「老衰すると何事も忘却~」「年を取っているので指の血が出ないから(んなバカな!)舌先を噛んで血判を…(怖すぎる~!)」と、なんともトボケた、しかしその裏にはキラリと眼光鋭い百戦錬磨の軍略家“狸爺”その人!という感じですね。 左團次さんの将軍は目に珍しく、楽しく拝見♪ いつも気になるのは戦場の大将の履物。 毛皮のモカシンみたいな…あれって何って名前ですか?
我當さん@木村長門守は、着物に香をたきしめる粋さを持ち合わせた華やかな若武者には…厳しかったなぁ汗進之介さん@郡主馬之助との組み合わせも一因あり?!) しかし緊迫している場のはずなのに、なんともゆる~い雰囲気のやり取りが面白い演目なんですね。
亀三郎さん@井伊兵部亀寿さん@成瀬隼人正。 最近別々でのご出演が多くなっている亀ご兄弟を久々に並びで拝見。 松也くん@榊原越中守は…やはり最近は立役の方がキリリとして姿が良いように思います。 後ろにズラリと居並ぶ20名もの家臣は迫力☆

きのこグリーン 伽羅先代萩
関西では【花水橋】【対決】【刃傷】の場は久々の上演との事。 私、実はこれらは初見!(のはず…) いつも観ている演目の前後を観る事によって、より理解が深まり…いや~、すっごく面白かった!「まぁ~た先代萩?!」って思って、ゴメンなさい汗でした。
★花水橋
“佃の合方”って好きなんですよね~♪ コレ、三味線でテケテケ弾けたらカッコイイ!と思うのだけど。
菊之助さん@足利頼兼は伽羅の下駄が似合うまさに“伊達男”って感じですね。 お話の設定は足利家なんだけど、竹&雀の柄の着物=伊達家の人間(実際はネ)、というこういう隠し味?が歌舞伎は楽しいですね。 めちゃくちゃ強いお殿様で、別に愛之助さん@絹川谷蔵の助っ人も要らないのでは?と思うのですが~汗 愛之助さんの相撲取りってのも珍しい。
この殿様が陰謀で隠居させられ、幼い息子・鶴千代が足利家の当主になるのであった…という部分だけの繋がりですが、悪党が怖さに押されてマッサージしてみたり、地図にされて道の説明に使われたり(←コレよくありますね)…となかなか楽しい一幕。
★御 殿
藤十郎さん@乳人政岡は何度も拝見していますが、今回が一番胸に迫るものがあり泣けました。 化粧が汗で落ちる様が両目から“赤い血の涙”を流しているようであり、腹のそこから絞り出すような慟哭に息をのみました。 「よく死んでたもった、でかしゃった~!」「有り難い、かたじけない、有り難い、かたじけない…」は、あまりの力強さに完全に“おっさんの声”になってましたけど汗 今回は【飯炊き】がナイ分、この場での注力が凄かったのかも? 先月に引き続き人間国宝に対して大変失礼ながら「当代・坂田藤十郎って凄いよ!」と改めて。
仁左衛門さん@弾正妹八汐は…怖い。 見るからに悪女!という悪意に溢れた冷酷な表情に惹き付けられます。 「何をざわざわ~。可哀想に、痛いかのぉ~?」は残酷さに凄みがあり、引っ込みの“ニヤリ”で背筋ゾゾォ~ッ冷や汗
政岡と八汐の体型も対照的だったのは、すごく効果的だったように思えました。
小川真生ちゃん@ 鶴千代は…ん~、ちょっとこの主君の為には命は差し出したくナイなぁ~汗という感じの冷血な印象。 対して長亮太朗くん@千松は演技が細かくてビックリ。 毒菓子を口にした上、八汐に刺されたその腕の中では足がピクピクと痙攣するんですもの!! あんな苦しみを見せられると政岡ママでなくても、たまりません悲しい
★床 下
松緑さん@荒獅子男之助に、仁左衛門さん@仁木弾正。 ただただ奇麗です…。 これほどまでに場の空気を支配して悠々と妖しく去って行く弾正なのに、次の場ではお白州に座っているって…カッコ悪~汗 【床下】の後場が続けてあまり上演されない訳が解ったような気がします。
ねずみが足からすっぽんに飛び込んだのには驚きました。
★対決・刃傷
菊五郎さん@細川勝元はスッキリとした裁き役。 傷を負いながらも左團次さん@渡辺外記左衛門愛之助さん@渡辺民部親子(珍しい組み合わせの親子だ!)に弾正へとどめを刺させ、また薬を飲ませたり、宮中内移動にも輿を用意させたり…と懐の深いお殿様の計らいにビックリ
渡辺外記左衛門が上状をいただく時、裃の差し込みを外して書状を挟んで受け取る…というのは作法なんですか? 血で手が汚れていたからたまたまこの場では…なんですか?
遺体となった仁左衛門さん@仁木弾正は“大の字”のまま頭上高く担ぎ上げられて退場。 これが絵になってカッコ良く“仁木弾正=カッコイイ役”という面目は保たれた…ような?

第五回・浪花花形歌舞伎(第三部)【松竹座】

 お染の七役
2004年2月博多座公演以来の観劇。 愛之助さん@鬼門の喜兵衛はこの博多座公演時が初役であり今公演はその時以来二度目との事。 演目全体の印象として、博多座公演時は常にバタバタしている忙し~い!という印象が強かったのですが、今公演ではそれを感じる事がなく驚きました。 鮮やかな替わりっぷりには全然慌てている様子が感じられず、純粋に「早替わりスゴ~イ!」と裏方さんとのチームワークの良さを堪能。 正直、演目と配役が発表になった時「扇雀さんの七役かぁ…」と観劇を躊躇してしまった私。 ゴメンなさい 面白かった~!
扇雀さん、初役での奮闘振りに拍手~☆なのは言わずもがなですが、やっぱり立役の方が好き(綺麗)だな、と思っていまいました汗 芸者小糸はすごく厳つい感じで、何故この女に孝太郎さん@油屋多三郎(超ナヨナヨくん!)がメロメロなのか謎でした。 逞しい女性に惹かれるのか?!  土手のお六のふてぶてしさは充分なれど、もうちょっとはすっぱでアッケラカンとした感じがあれば良かったなぁと思いました。
愛之助さん@鬼門の喜兵衛は…どうしても土手お六の旦那には見えなかった汗 二人のバランスなのかなぁ? 不敵な不気味さを強調する為か声が低くドスを効かせているので、セリフが聴き取り辛いのが難点。 この演目を観ると喜兵衛のセリフ「タニシの木の芽和えさぁ~」がすご~く耳に残るのは私だけ?
番頭さんと鈴木さん
橘太郎さん@番頭善六薪車さん@鈴木弥忠太「目で合図、鼻で合図しているというに、いつもビンシャン!ピンシャンと~」ってオウムが可愛いお二人ですが…“鼻で合図”ってどんなんよ? 橘太郎さんの愛嬌ある番頭さんはホントにラブリーですね! 大好き♪ 橘太郎さんの今公演へのご出演はビックリ嬉しかったです♪ 薪車さんは意表を突かれたお役でしたが堅物ぶりに可笑し味があって好演。
竹三郎さん@百姓久作のひょうひょうととながら確かな演技にハラハラと楽しい気持ちにさせられました。
ふぐに当たって仮死状態?になった扇一朗さん@丁稚久太。 お灸で生き返るとは「んな、馬鹿なぁ~」というザ・歌舞伎に笑いながらも愛嬌たっぷりに好演。 今月27日には師匠・扇雀さんと福岡電気ホールで【第一回・若扇会】を開催する扇一朗さん(北九州市若松区出身)、応援してます!

第五回・浪花花形歌舞伎(第二部)【松竹座】

月 業平吾妻鑑
萩の花が一面に…というのは珍しいですよね。 日本の美男の代表・在原業平の東下りを題材に東六合での行く末を思う道行きの様子を語る舞踏で私、初めて拝見。
進之介さん@在原業平薪車さん@舎人太郎吾…と、男前が二人並んでの舞踏は通常だと「眼福☆眼福♪」となるんでしょうけど…あの~、その~、進之介さん冷や汗 以下自粛。
今公演で【双蝶々曲輪日記】が一番面白かったです! あまり上演されない【難波裏】によって、濡髪長五郎が何故あそこまでに至ったのか?という事がよく理解出来て【引窓】がより一層感動的なものになっていたかと。 翫雀さんも三役で大奮闘で大満足♪

 角力場
私、翫雀さんのファンになったのはこの山崎屋与五郎であふれる愛嬌を拝見し…なんで、とにかく楽しみにしていたのですが、今公演ではつっころばしな部分はそのままなれど、バカっぷりが押さえられていて(難波裏に続くからか?)大関の羽織を二人で羽織ってウキウキと歩く…という大好きなシーンがカットになっていたのは個人的には残念でした悲しい シリアスおぼっちゃん設定になってました。
でっけぇ~大関
で…特筆すべきはなんといっても亀鶴さん@濡髪長五郎でしょう! 細面でスレンダーな亀鶴さんが関取最高位の大関(この当時は)?!って配役を聞いた時は驚きましたが…拵えの工夫もあって実に“でっけぇ”感じが出ていて、すっごく良かったです。 元来、声がイイ方ですが、声もズッシリと重く響いて安定してましたね~。 角力小屋からの出の風格は立派。
対する翫雀さん@放駒長五郎は…現役小兵力士、と言っても通用するくらいなんの違和感もなく~汗(元・智の花くらい?) もうちょっと濡髪に対して対比的な若々しさがあれば良かったな~。

強風 難波裏
私、いつも【角力場】の濡髪と【引窓】の濡髪って、同一人物よね? なんであんなに境遇が変わってるんだろ~?と物語の大筋をきちんと把握してナイもんで疑問だったのですが…今公演にて「なるほど~、ガッテン!」 ま、大筋を頭に入れて最初から観とけよ!って事なんですが~汗 武士というだけでそんなにエラいんかい!という不条理を感じて憤ってしまいます~。 大関という厳ついガタイながら、キビキビと立ち廻る様は亀鶴さん@濡髪ならでは…でしょうか?
壱太郎くん@藤屋吾妻翫雀さん@山崎屋与五郎。 親子で初の恋人役になるそうです。 そういえば壱くんのお母様であり翫雀さんの奥様は…吾妻徳弥さんである訳で、お二人にとっては“吾妻”ってなんだかな~って感じだったのでは?と思ったりして。 壱くんでここまでセリフと演技が要求されるお役で拝見したのは初めてですが…硬っ! 表情が全然変わらないまま、とにかくセリフをこなしている感が否めず、この恋人二人の危機感が今イチ薄い感じだったのは残念。 今後に激しく期待してます!

月 引窓
福岡では“博多三大祭り”のひとつとして【放生会】がありますが“ほうじょうや”と読みます。 一般的にはこの演目のように“ほうじょうえ”が普通かと思うのですが…福岡以外に“会=や”と読む所はあるのでしょうか?
孝太郎さん@女房お早がイイですね。 単に私が翫雀さんと孝太郎さん夫婦…というコンビが大好きだからなおさらそう思ったのかもしれませんが。 ホントに仲の良い夫婦で、郭上がりながらお姑さんともすごく上手くいっているほのぼの家族っていう空気感がとても良く出ていて…ここにお尋ね者となった濡髪が突然転がり込んでくるからして、この悲劇性が際立つ感じが強くなった印象を受けました。
しかしお早さん、神棚へのお供えはお幸さんの補助ではく、あなたがしてあげてくださいっ! ご高齢ですからちょっとした転倒が大変な事になりますからね…。
竹三郎さん@母お幸は意外にも今回で二度目との事ですが、この手のお役はさすが~とひたすら感動。 感情の移り変わりが激しく忙しいのですが、それが自然な流れだけに泣かされます。 息子・濡髪のどっしりとした歩き方を真似てみせるおちゃめぶりもあり♪
扇雀さん@平岡丹平愛之助さん@三原伝造を母親の小屋で休息させた後、いそいそと喜びいさんで小走りに家に入り…あわてて武士らしく振る舞う翫雀さん@南与兵衛後に南方十次兵衛の愛嬌にニッコリ。 今三役された中で一番好きでした。 “玩辞桜十二曲の内”という事でお家芸のひとつ。 本公演では初めてとの事ですが、今後は持ち役のひとつとなるのではナイでしょうか?と嬉しく思えた好演♪
通して…なにより亀鶴さん@濡髪長五郎今後のお役の可能性をすごく楽しみに出来る好演でした!
血止めや傷止めに墨を塗る…っていうのはこの時代一般的だったんでしょうね?(火傷=アロエ、みたいな?) ホントに止まるのかな?って試したくはありませんが~汗