文楽を知る・愉しむ【イムズホール】

毎年末、博多座では恒例となりつつあった文楽公演ですが、今年は年明けのあのミュージカルの仕込みのせいで中止怒り 1日限り2回公演のイムズに行ってきました。
以前、博多座公演の際に「毎年同じ時期なので来れるメンバーが決まってしまう」と登壇された方がおっしゃってて、遠征すると初めてお見受けする太夫さんや人形遣いさん、三味線の方に「なるほどな~」と思ったもんです。 で、今公演ではやはり年末の博多座公演ではお見かけしない方もいらっしゃって「博多座公演が…」とションボリしてましたが、これはこれでこじんまり~と楽しめました♪

一. あらすじ

豊竹睦大夫さんから「今回はあまり上演されない…十郎兵衛が実娘おつるを誤って手にかけてしまうくだりの部分に注目~」と、あらすじの紹介。

二. 傾城阿波の鳴門 十郎兵衛住家の段

「ととさんの名は十郎兵衛~、かかさんの名はお弓と申します~」で有名ですが、文楽では初めて観たので興味深く引き込まれました!
女房お弓(吉田和生さん)の、しっとりとした女房ぶりがなんとも素敵☆ 巡礼おつる(吉田玉翔さん)は娘…といえども三人遣いの大きな人形なんですね。 観ている側は母親の心情に沿ってホロリとさせられるいじらしさに感嘆。 髪を梳いてあげる細かな動きはもはや人形という事を忘れてしまいました。
(前=竹本津駒大夫さん×鶴澤清友さん
前段でおつるの親を恋い慕う心情を強く伝わって心撃たれていたので、実父の十郎兵衛(吉田幸助さん)に、事故的に命を奪われてしまう悲劇が殊更際立つように思えました。
こんなに劇的なくだりがあまり上演されナイ…というのは、あまりにも悲劇的で救いがナイからでしょうか? 娘の亡骸を人手に渡すまいと障子を倒し被せて火を放つ様は衝撃的でした。 煙もちゃんと出る演出だったし。 文字久大夫さん、すっごく聴きやすくて感情移入し易くて好きです。
(奥=竹本文字久大夫さん×鶴澤清二郎さん

三. 解 説

義太夫=豊竹睦大夫さん、三味線=野澤喜一朗さん、人形遣い=吉田和生さん、での解説。
博多座公演では解説する人が固定化しちゃっているので、お話も毎度同じ内容の繰り返し…でちょっと飽きていたのですが、今回はどの方も初めてお話を聞いたので「へぇ~」と初めて知る事も多く、とっても面白かったです。 皆さん、大阪ご出身の方が多いのでお話お上手ですよね~。
中でも三味線の皮は表裏とも犬の場合と、表が猫の場合で音色の余韻が違う、というお話はビックリでした。 「人形や三味線で使われている素材は現在ではワシントン条約的に厳しいものが多いんですよね~汗」というお話が印象的でした。

伊達娘恋緋鹿子 火の見櫓の段

昨年の【文楽いろはレクチャー】で観たばかり(ばかり?)だったので、その時とのお七(吉田清三郎さん)人形遣いさんの表情の違いが面白かったです。
豊竹睦大夫さん×野澤喜一朗さん

初春文楽公演・国性爺合戦【国立文楽劇場】

国立文楽劇場デビューです♪ 「一度、本場の専用劇場で文楽を観てみたい」と思っていたところ、年末恒例となっていた“博多座文楽公演”が今年は翌月公演準備の為にナイ冷や汗という衝撃のニュースを耳にし「これは何処ぞの劇場で“文楽チャージ”しとかないと!」と相成った訳でございます。
先に松竹座と京都劇場での観劇が決まっていたので「遠征中に観劇可能な時間で…」となると【国性爺合戦】観劇になりました。
初めて足を踏み入れた劇場にキョロキョロしながら、【芝居絵】の独特の画法に興味を引かれ、舞台上部中央に飾られた大凧(戊子、と書かれてる)を挟んで巨大な二匹の鯛のお飾り(張り子の二体のにらみ合う鯛)を見上げて「めでてぇ~なぁ~♪」と開演前から気分も盛り上がる☆ 関西では?定番のお正月飾りなんでしょうか? 日曜日という事もあるのかもしれませんが、満員の客席に「さすが本場。生活に根付いている芸能なんだなぁ~」と感心
私、この演目は映像を含めて歌舞伎でも観たことがなく、とにかく全く初めての観劇。 全体を通して感じたのは“胡散臭い異国情緒”で、これが何故かしらツボでした汗 上演され始めた当初は全く想像もつかない遠い異国の地の雰囲気を頑張ってイメージした演出なんでしょうね。

魚 平戸浜伝いより唐土船の段
蛤が演技してるっ!」…ってコレだけで掴みはOK☆な冒頭。 蛤×鴫の攻防を差し金で表現しているのが、な~んかすご~く“児童人形劇ちっく”で可愛らしい。 と…いっても文楽は【世界無形遺産】ですから! この攻防で、いわゆる“漁父の利”を得て軍法の奥義を悟る和藤内(=勘十郎さん)。 和藤内とは『和(=日本)でも、唐(=中国)でもナイ』という事からのネーミングとは、なかなか洒落てますね(=ハーフ)。
トラと婆さま
トラ 千里が竹虎狩りの段
歌舞伎でも着ぐるみでの動物はよく出てきますが「ココまで愛嬌があって芸達者な着ぐるみは初めて観た!」というほどのトラの奮闘ぶりに客席が大いに湧きました☆ 大夫さんの床に乗り上がったり、客席側に乗り出して吠えたり…で客席からは思わず「きゃあ」って声が上がったりで楽しい♪楽しい♪
和藤内の老母(=紋豊さん)はこの虎の背に乗り、家来を引き連れて悠々と城に向かう様はカッコイイですね~☆

桜 楼門の段・甘輝館の段
錦祥女(=文雀さん)の出で「うわぁ…」とじわが! 人形なのにじわが起こるんだ…と、驚きました。 いや、ホントに思わず声が出てしまう美しさ、というか気品というか~。 これが人間国宝の人形遣いさんのなせる技なんでしょうか。
後ろ手に縛られた老母は、左手遣いさんはお休みで二人遣いになるんですね。 まだまだ文楽ビギナーなので、こういう事もいちいち驚いて楽しめます(冒頭は主遣いさんも頭巾を被っていたのは何故?とか~)
お話としては、いくら血が繋がっているとはいえ、生まれてから初めて顔を会わせた親の為にすぐさま命を投げ出すとはビックリ! 錦祥女が自分が持っていた父親の肖像絵と楼門下に居る老一環を見比べるのは手持ちの鏡にて。 ちょっと七段目のおかるを連想。 楚々としていてとても愛らしい…。

お城 紅流しより獅子が城の段
遣水に自分の血を流して事の次第を知らせる錦祥女。 水面を赤く染めて流れる様に「どんだけぇ~?!」と、これこそ正にそう言いたくなるのですが、この仕掛けが面白いですね~! 「何も老母様まで自害せんでも~」と驚きつつ、和唐内と甘輝(=玉女さん)の豪華な立派さに感動。
これは~、ちょっと早いトコ歌舞伎でも観てみたくなりました。 様々な趣向が盛りだくさんで見応えた~っぷりの演目で大満足の国立文楽劇場デビューとなりました♪

博多座文楽公演・夜の部【博多座】

心中天網島(北新地河庄の段)

観る前から『小春の人形遣いさんって動きがナイのも大変だろうなぁ』と思ってましたが…みどころが多過ぎてチェックに忙しく、小春だけには集中観劇出来ませんでした~汗 ただ主遣いさんがひたすら真正面向きで客席の遠くを見据えていたのが不思議な感じ。 主遣いさんって、人形の頭の動きであとの二人にサインを送る…と以前解説でおっしゃってましたけど、必ずしも人形が動く方向を主遣いさんが顔を向けている、という訳じゃないのでホントに不思議。
上方の世話物を観ると『女の方が大人だなぁ』と思い、男の自己中心的な身勝手さに呆れながらも笑える事が多いけど、何故だか歌舞伎で観る時よりも、治兵衛により非情さを感じて憤りを感じました。

天網島時雨炬燵より(天満紙屋内の段)

炬燵でフテ寝する夫にそっと蒲団をかけて陰で涙する妻おさんの一連の動きの細やかさと、まるで涙がホロリと見えたような佇まいに気持ちをわし掴みにされましたっ!
小春とおさん、こんなに良く出来た女性に想われるからには、治兵衛とは相応の魅力のある男なんだろうけど…なんだかなぁ。 と、やっぱり心中ものにはどうしても納得できない不条理さを感じて、苦手です。 当時の世相や価値観の違いなんでしょうけどね汗

勧進帳

歌舞伎では「また勧進帳?!」と、いくら人気演目でもそりゃかかりすぎたろ?!と近年はいささかウンザリなのですが、文楽で観るのは初めて。
大夫8名・三味線6名とズラリ居並ぶ様は圧巻で、そのうち2名の大夫さんは幕内に入ってしまう大所帯! 語りも音も重厚に層を成す様は耳に大変心地良く圧巻で大感動☆ 大夫さんたちの見台のデザインチェックも目に楽しい♪
玉女さん@弁慶と左手遣い&足遣いさんは全員顔出しでお揃いの拵えなんですね。 さすがに人形そのそものも大きく、大役である事が出だけで判ります。 そして…その動きの荒々しさ、激しさに圧倒されて遣い手の皆さんのふと見ると滝汗状態。 相当な運動量なんですねぇ~冷や汗
ただ後半の…安堵して大好きな酒を陽気に楽しむユーモラスな弁慶は、表情に負う所が大きいために「ココはやっぱり人間の方が~」と個人的には思いました。
そして、弁慶vs富樫というのは“見た目も対等(大きさ)”である事が必要かと思うのですが、人形故か富樫の方が随分大きくてビックリ☆

博多座文楽公演・昼の部【博多座】

今年で4回目となる“博多座文楽公演”。 公演期間も3日間となって2回目で『年末の博多座は文楽公演』で定着した模様…と思いきや!来年は翌月からの3ヶ月ロングラン公演【ミス・サイゴン】の仕込みの為に文楽公演はナイとの事冷や汗 そりゃあんまりじゃぞぇ~、博多座!悲しい
昼の部は昨年上演された【仮名手本忠臣蔵】の続き…という事で八、九段目がかかりました。
今回も上演前に勘十郎さんによる登場人物と演目の解説あり。 博多座公演もすでに4回目という事で、物語のとっかかりをサラッと流した感じのごくごく簡単な解説となっていました。

仮名手本忠臣蔵・八段目(道行旅路の嫁入)

文雀さん@戸無瀬簑助さん@小浪という豪華な配役! 娘のけなげさ、その娘を気遣う母親の細やかさに感涙。 一途に力弥を想い気持ちが急く乙女心が、動きの端々に見受けられて可愛くてたまらない!
そんな娘を不憫に思い気遣いながら「なんとか想いを遂げさせてやりたい」という母心が溢れていて、胸が痛くなりました。
人間国宝の主遣いさん対決の出で「おぉ~!豪華☆」と思ったのは最初の方だけで、すぐに人形しか目にはいらなくなって見入ってしまうのは…さすが!なんでしょうね。

仮名手本忠臣蔵・八段目(雪転しの段)

まず雪が深く積もった庭先で雪かきをしている描写がユーモラスで可愛い! 大きな雪玉をコロコロ転がしていく様は…なんだか綿菓子を作ってるみたい♪

仮名手本忠臣蔵・九段目(山科閑居の段)

松の廊下での刃傷が原因で、子供同士が結婚の約束を交わしていた両家の関係が難しい事になっている…という背景で緊迫したやり取りは人形でもこんなにも感じるものなのですね!
小浪親子の突然の訪問に、冷たく強固な対応をする由良助の妻お石からはビンビンとした威圧感が感じられて「コ、コワイ~」 表情ひとつ買えず(人形ですから!)でキツイ事をパシバシッと言ってのける気丈さは、由良助の妻として主人の留守宅を預かる責任故なんだろうなぁ…と感じられます。
そんなお石に必死に懇願続ける親子の哀れさと、それを見かねて割って出て命を投げ出した父親・本蔵の娘への愛情は…気迫に溢れて魅せられるものの、心情的には何度観ても(歌舞伎等で)一家総出で我を押し通す身勝手さを感じて苦手なんですよね~。
本蔵が三方台をバリバリと踏みつぶす様は豪快で印象的でした!
咲甫大夫さんの気迫溢れる語りに魅せられて感動しきり

日高川人相花王(渡し場の段)

前段の勘十郎さんの解説で『ただ川を渡るだけのお芝居です』との事でしたが…全くもってその通り!なんですが…それがこんなにも見所が多くて面白い演目になるとはホントに驚きました。
子供の時、NHK人形劇を観ていた世代なんですが、それには多くの文楽の手法が取り入れられていて“綺麗なお姫様が一瞬にして口が裂けた鬼の形相になる”ってのが強烈な印象として残っているんですが、今演目で初めてそれが元ネタの?文楽で観れた事に興奮しました!
荒々しくはためく浪布を豪快に鬼気迫る様子で大蛇に身を変えながら渡っていく様は「こ、こわぁ~」 “文楽ならでは”の見せ方を堪能。 対岸に渡って…クワッと鬼の形相と化した清姫に「誰だって逃げたくなるわな」と。 ホント、面白かった!

文楽いろはレクチャー【アクロス福岡】

【2007福岡舞台芸術シリーズ・日本の古典芸能鑑賞講座】のひとつとして、この“文楽いろはレクチャー”は昨年に続いて二回目の開催(博多座文楽公演は今年で4回目)。 私は今回初参加だったのですが…円形ホールという凝縮された空間で2時間近くもみっちりと解説があって、体験もあって…で、参加費が1000円!って申し訳ナイくらいの充実感と満足感が得られた内容で驚きましたっ!
いろはレクチャー
毎年の博多座文楽公演では【文楽のみかた】として20分程度の解説があるのですが、こちらはごくごく触りの解説で、毎年観に行っていると何度も耳にする内容なので、今回のレクチャーもこれに補足した程度のものかなぁ~と、思っていたら…ゴメンナサイ! 大満足の充実内容でございました~。
義太夫は豊竹咲甫大夫さん、三味線は鶴澤清志郎さん、人形は吉田一輔さん…このお三方が各パートの解説をされて、最後には参加者が各々に挑戦する!という趣向。
実演では【伊達娘恋緋鹿子・火の見櫓の段】のお七と【艶容女舞衣・酒屋の段】のお園を披露。
私は本作でも拝見した事がなかったので、お七がどうやって櫓に上るだろう?と興味津々でしたが…なるほど~、上手く工夫されてるもんだなぁと感心しきり。 真っ暗な舞台にひときわ映えるお七の緋鹿子が印象的☆
特に印象に残ったのは三味線。 博多座の解説では楽器としての造りや、何を表現している音色なのか?という解説はあるけれど『どういう心情で弾いているのか?』『太夫との掛け合いの大切さ』『文楽特有の太棹の特徴』など初めて伺う事が多く、今後はもっと三味線に注目して観劇するぞ!と思わされました。
清志郎さん(キヨシロウじゃナイよ!)をはじめお三方ともトークがすごく滑らかでお上手なのには驚きました♪
会場からの質問コーナーで咲甫大夫さん。
【にほんごであそぼ】(NHK教育=毎朝欠かさず観てます!)に関わるエピソードで…近代文学作品を義太夫で語るのは、実は文章の節回しが似ている?ので作りやすい。 番組で語っている子供たち(小林翼くん、與那嶺結衣ちゃん)は特別物覚えが良く教えるのに苦労は全くナイ。 「翼くんは、彼が将来を決めないうちに早いトコこっちに(文楽の世界)引っぱりたいなぁ~。 でも“つばさ太夫”ってもう居るから、名前は何がイイかなぁ…」って本気で考えていたのが笑えました。
お三方から各々のパートにおける博多座公演の見所も伺い、公演がますます楽しみになりました♪