通し狂言・伊賀越道中双六【国立劇場】

秋の国立では…ほぼ毎年?鴈治郎さんが意欲的な試みの舞台を見せてくれますね。 今年は【通し狂言・伊賀越道中双六】と聞けば、それは遠征しなくっちゃ!でしょ。
竹三郎さん@和田行家。 私は竹三郎さんは女形でのお役で拝見する事が殆どだったので、このようなお役で…というのがまず衝撃的。
そして…今回一番衝撃的だったのは、信二郎さん@沢井股五郎。 信二郎さんの悪役って、国立新作歌舞伎【秋の河童】以来の拝見で、その時はチンピラながらも、どこか“おっとりした品の良さ”が感じられて残念だったのですが…「股五郎、イイ!」 登場から、どうも胡散臭い人物という図太い雰囲気が出ていて、ガラッと態度が豹変するところでは表情にも声にもゾクゾクしちゃいました。 『顔良し、声良し、姿良し』です。 これからどんどん信二郎さんの敵役でのご活躍を拝見したいなぁ、と強く思いました。

【饅頭娘】は、生の舞台で観たのは初めてだったので、ものすごく楽しみにしていました。 彦三郎さん@宇佐見五右衛門のキャラクターの解説で「刀の鞘が朱塗りなのは、この人物の気性を表している」との事だったけど、ん…ちょっと解らなかったデス。
彦三郎さんでは私は初めて拝見するお役のタイプに「もし吉弥さんがいらっしゃったら、このお役は…」と思ってしまったりしました。 魁春さん@女房お谷は、心の揺れがとても感じられて、夫の真意が解るまでの辛い心情が伝わってきました。

そして【沼津】。 私、我當さんという役者さんへの認識を改めさせられました。 どちらかというと、堅い演技をされる印象が強く…といっても、たまたまそのようなお役で拝見する機会が多かっただけでしょうけど、我當さんの柔らかで可笑し味のある雲助平作って、ちょっと想像がつかなかったんです。 鴈治郎さん@呉服屋十兵衛との、じゃらじゃらしたやり取りはニッコリ笑えましたし、十兵衛が我が子と判明~自害は、ホロリホロリ…で一気に惹き付けられました。 そんな息詰まる中、秀太郎さん@平作娘お米のチラッとみせる艶やかさにホッとさせられました。 やっぱり【沼津】はイイですね どなたが演じられても好きです。 鴈治郎さんは“コッテリ風味”ですね。
あ! 翫雀さん@誉田太内記、ふっくらとした品の良い殿様でした。 “度量の大きさ”や“剣術の腕がたつ”という雰囲気は、ちょっと厳しかったような気が…。 でも私的には久々の“生・翫雀さん”を拝見できたのでニッコリでしたけど。

通し狂言・加賀見山旧錦絵【国立劇場】

3月の国立劇場は、ほぼ毎年新作歌舞伎がかかっていましたが、今年は違いましたね。 しかし!翫雀さんはご出演。 しかも岩藤で! これを聞いただけで、遠征は即決でしたが、尾上は扇雀さん、お勝はなんと亀治郎さん!とくれば、嬉しさ倍増。
国立劇場が新・システムになってから初めての遠征でもありました。 銀座から外苑をうららかな春の日差しの中、の~んびりとお散歩しながら参上しましたが、終演後はスーパー競歩で歌舞伎座へ汗だく猛ダッシユでした~。

実は私【再岩藤】の方しか舞台で観たことナイので 今回のどの部分が“上方風”なのか判らず ( ̄∇ ̄*)ゞ 序幕“三圍花見の場”の上演は珍しい…らしいです。
岩藤って“ただ怖い悪ドイおばさん”というイメージ しかなかったけど、亀鶴さん@求女をめぐって 翫雀さん@岩藤鴈成さん@腰元早枝が恋の火花を 散らすのが面白かった♪ 岩藤が求女にジットリと 迫るシーンはなんだかすごくイヤラシくて、求女の おろたえぶりには気の毒な気さえしました。 かなり笑えるシーンでしたけど(*^m^*)  岩藤も恋する 女性だったですね~♪
扇雀さん@尾上は、草履打されて意気消沈しての花道 の引っ込みが素晴らしかった。 感動しました。
亀治郎さん@お初。 なんだか鴈治郎さんに表情まで もが似ていたような気がしたのは…気のせい? 最後は、すっかり舞台を持っていっちゃいました~。

翫雀さんの女形、少しづつ免疫がついてきた…かな~。私。

霊験亀山鉾【国立劇場】

劇場でパンフレットを手にとり、まじまじと読んでいると『~亀山の仇討ち~』と副題があり、“仁左衛門さん三役”“四世・鶴屋南北”作品という事くらいしか予備知識がなく足を運んだので「そういう大筋なのか~」とソコで合点がいったお恥ずかしい次第。 上演は平成元年11月以来だそうだが、その時とは随分違った芝居に仕上がっているらしく、久々にかかるという話題の芝居となり、国立劇場は平日でもかつてないほどの?盛況ぶり。
敵役の水右衛門、それにウリふたつの八郎兵衛、そしてその父ト庵の三役を一人の役者が演じるというのは江戸の初演以来という事。 これは今公演の成功の要因のひとつだと思う♪

序幕

仁左衛門さん@水右衛門、石井一族が次々と仇討ちに挑む“大きな敵”という感がこの序幕での、卑怯なやり口、不敵な笑み、残虐さで印象づけられ、美しい姿がより冷血さを際立たせる。 「ここまで低い、響くようなセリフまわしは初めて聞いたので鳥肌が~!

染五郎さん@源之丞孝太郎さん@お松。 この場での若い夫婦の仲睦まじい様が後半の悲劇をより悲しいモノに見せるように感じた。

二幕目

弥十郎さん@官兵衛。 最近はこのような三枚目のお役で拝見することが多いのだが“ガタイがイイ”だけに、その一途な滑稽さが愛嬌あるものになってハマる♪
秀太郎さん@おりき。 も~う、こういうお役の秀太郎さんって大好き! 「いるよ、いるいる!こんな色と金のプロって感じのオバさん!」って言いたくなる。 失礼ながら…上手いなぁ~。
染五郎さん@源之丞は、妻を残して仇討ちに出掛けたが、その道中の丹波屋で女将のおりきに惚れられるわ、芝雀さん@芸者おつまとは子まで成すは…で、イイご身分?! 二人の間に入ってオロオロ&ニヤニヤする色男ぶりは笑えたが…、ふと「これ3人とも男の人なのよねぇ…」と何故だか一瞬思い出して素になってしまった自分がイヤだった! 遊び人風情のお役の染五郎さんって好きだな。
焼場に通じる街道で「狼が出たゾ~!」 私が歌舞伎の演目で観た動物の中で一番“らしい”動物で、動きもナイス! 石井一族の重宝の【鵜の丸】の巻物は白蛇が守る秘書である為、その巻物をひもとく度に白蛇が現れるのも楽しかった。 木から垂れ下がっている蛇の動き、上手かった~!

この演目の最大の見せ場【駿州中島焼場の場】。 本水の雨が降る中、芝雀さん@おつまは水右衛門の一味、仁左衛門さん@八郎兵衛と熱演の立廻り! まさかこんな演出があるとは思いもかけなかったので、芝雀さんファンとしては嬉しい誤算。 しかも八郎兵衛を倒しちゃうし!!
そして…バリバリバリ~! 火にくべられた棺桶を破って仁左衛門さん@水右衛門、登場! ギャーッ、カッコいい~♪ (でも棺桶が乗せられている屋台から降りる時、薪が崩れて仁左様よろめきアッ!)
せっかく頑張ったおつまはアッと言う間に殺されちゃうけど、彼女のお腹を刺しながら石井一族の奪った命の数を笑いながら指折り数える様はゾゾ~。 歌舞伎で…ココまでワルなお役って珍しいのでは? でも“悪の華”という感じで残酷だけどとても綺麗なシーンとして印象深い。

三幕目

源之丞の妻として正式に祝言をさせる…と機屋に尋ねてきた、秀太郎さん@貞林尼を全身で嬉しく迎えいれる孝太郎さん@お松。 傍らには奇病で足腰の立たない息子、清水大希くん@源次郎が居るというのに、少女のようにはしゃぐ姿が愛らしいので、夫が死んだと聞かさせた時の驚きは胸が痛い。
あいかわらず可愛くて演技が達者な大希くんにニッコリ♪
源之丞の…石井家の下部、染五郎さん@袖介と、水右衛門の父、仁左衛門さん@ト庵との対決。 話しの筋の上でとても大事なんだろうけど…この場、何故か弱かった。 染五郎さん、全体を通 して出番が多かったのに、何故だか印象が薄かったのは残念。

大詰

城下では遠くに祭りのお囃子が聞こえてくる賑やかな中、舞台手前では緊迫した仇討ちの場。 この演出には感心した!
この座組での出演は大変珍しい段四郎さん@重臣・頼母。 出番は少ないものの、歌舞伎味がピリッと効いていてとてもしまる感じ。 私自身、舞台でのお元気なお姿を拝見するのは久し振りなので、それだけで嬉しい♪
石井一族の大敵・仁左衛門さん@水右衛門に挑む石井家の人々。 皆の期待を一身に受けた清水大希くん@源次郎が斬りかかる度に急いで自分の身に引き寄せる、孝太郎さん@母・お松の表情がたまらなくヨカッタ! 母としての慈愛はもちろん、夫や姑の気持ちを引き継いだ仇討ちに対する気迫が感じられた。

花形若手歌舞伎【国立劇場】

『国立劇場新作歌舞伎脚本入選作品』という事で、その上演に至るまでは数々のご苦労があったんだろうなぁ…と思いながらも、観客としては初めて観る作品にワクワクしながら劇場に足を運びました♪

 💡 冬桜
あらすじ 鎌倉幕府に仕える御家人ながら所領を失い、没落した武士・佐野源左衛門常世(歌昇さん)が主人公。 妻・弥生(芝雀さん)と二人で村はずれの雪深い寂しい一軒家で慎ましく暮らす姿には、過去を忘れようとする様があり痛々しい。 ある大雪の夜、旅の僧・後に北條左近将監時頼(愛之助さん)が一夜の宿乞いに訪れた事から“自分自身と向き合う”本来の自分を取り戻す常世であった…。

失意の夫を支える芝雀さん@弥生の献身的ぶりが胸を打ちます。 真冬にも見事な桜を咲かす鉢の木(冬桜)は、夫がかつて鎌倉御家人であった事を刻みつける思い出がある為、大切に育ててきた鉢植え。 しかしこの鉢植えを売って金に変えてしまおうとする夫に、かつての御家人としての気高き夫も消えてしまうのではないかと感じ、自分の髪を切って金を工面しようとする姿に涙。 目で必死に訴える様がなんとも痛々しく“懸命に夫を支える妻”を好演。 愛之助さん@旅の僧は、そのスッキリした姿や、常世に“生き方”を語るくだりには 後に家督を継ぐ執権職となる人物、という大きさが感じられて◎
旅の僧に暖を与える為、大切な鉢植えの桜を斬って薪とする見せ場では“本来の自分”を取り戻した常世の心の移り変わりの様に、驚きながらも弥生の気持ちと一緒になって喜んでしまいました♪
二幕目は幕府執権職となった僧侶・北條左近将監時頼と常世夫婦が対面するのですが…ちょっとラストが難解でした(@_@)

 💡 秋の河童
“歌舞伎初の試み”として主人公にしか見えない河童を再現する為に“モーションキャプチャー”を採用した事で話題の舞台。 スクリーンに映し出される河童と主人公のやりとりはコミカルで、大いに客席が湧きました♪

あらすじ 愚図でのろまだか、人が好くて世話好きな飾り職人・常次(翫雀さん)が主人公。 近頃は、川で釣ってきた河童の太郎の世話をしながら仲良く暮らしている。 我がままな女房おすが(芝雀さん)は情夫・徳蔵(信二郎さん)と共謀して常次を殺そうとするが、河童の太郎が「ご恩返し!」とばかりに常次のピンチを救い、二人の悪事を暴くのであった…と、別題“河童の恩返し”といった所…かな?

筋書きに『翫雀の常次は余人を持って替えがたいピッタリの役』とありまして…ホント、翫雀さんの愛嬌ある雰囲気が常次のキャラにピッタリ~♪ 常次にしか見えない河童を表現する演出は、翫雀さんの一人芝居だったり、スクリーンに映し出される姿だったり、傘や着物が一人で宙に浮いたり…と様々な趣向で楽しめて、客席には子供も結構いましたが声を出して笑ってました! 情夫と共謀して夫を殺そうとする芝雀さん@おすがは、綺麗な顔をしているだけにその残酷さが引き立ち、冬桜とは正反対のキャラを演じわける“芝雀さんの変身ぶり”にも驚かされました。 長屋のおせっかいおばさんを演じる京蔵さんがイイ味出してました♪ お話自体はちょっと“まんが日本昔ばなし”のような感じで、ほのぼのと楽しめる作品でした。