蓮絲恋慕曼荼羅【国立劇場】

国立劇場の【歌舞伎脚本入選作】の上演はココ数年?3月に続けて上演されていた印象でしたが…ご贔屓役者さんの出演が続いた事もあって、比較的よく観ている私。
今月も「おっ♪澤瀉屋一門出演で新作だなんて☆」と、その発表時点で遠征を早々と決定していましたが、後に『演出のみの予定だった玉三郎さんも出演』というビックリ発表があり、一気に話題沸騰! 当然チケット争奪戦も熾烈となり(しかも小劇場だし!)大変な事になりました。 発売と同時に全公演即日完売しましたが1回追加公演されたようです。

『国立劇場開場40周年記念』公演のトリを飾る事になった本作品は、中将姫伝説をペースとしたもので、母親を違う初瀬と豊寿丸という二つ違いの姉弟でありながら、豊寿丸が初瀬を熱烈に恋慕った事から巻き起こる愛憎劇。

セットは舞台に手前から奥に傾斜が付いており、具体的な大道具・小道具はなく、場面転換はパネルの仕切りと照明で表現し、観客のイマジネーションにゆだねる手法。 オープニングの人物シルエットの使い方には、ワクワク感が一気に高まりました! 花道や下座音楽もなく、琵琶の音が印象的に響く程度。 故に役者が際立ち、美しい衣装が際立ち、セリフが際立ち…という効果を得ている印象。 『隅々まで行き届いた玉さんワールド』ってな感じでしょうか。
ラスト、舞台奥へ向かっての横並びの引込み…というのは、ならではの手法で印象的。 着物の裾がフワッと広がって絵的に美しく、総体的にはハッピーエンドという事が強く感じられました。

玉三郎さん@初瀬。 十代という設定らしいのですが、すでに悟りを開いたような包容力もあったりで、少女らしさと母性を兼ね備えた気高い魂を持った女性。 これは…もし当初の予定通り澤瀉屋一門のみの出演だったら、果たして一体誰が初瀬を演じられたのかしら?と考えずにはいられません。 しかしながら、玉三郎さんのご出演がなかったら?ご出演があったから?…といろいろと想像を巡らせてしまう事も確かではありました。
今回改めて“初々しい”事が自然に感じられる玉三郎さんの役者ぶりに感嘆。 「自分一人でそんなに背負い込まなくてもイイのに~」とハラハラし、父親である門之助さん@藤原豊成からも誤解を受けた悲しみと傷心ぶりは痛々しく、「豊寿丸の奴、初瀬をこんな目に遭わせやがって~」とフツフツとした怒りを覚えるほど。 ラストの…「何故、世捨て人に?」という出家する姫への問いに対して「捨てるのではない、拾いに参るのじゃ」 という穏やかな嬉しそうな微笑みに以前の初々しい様に加え艶も見て取れ「彼女はこれから幸せになるんだわ」と安堵出来ました。 しかし、昔の十代って…大人だわ。
段治郎@豊寿丸
段治郎さん@豊寿丸。 原題は『豊寿丸変相』であるからして主役であり大変難しいお役かと。 玉三郎さんの相手役としてビックリ抜擢!な目新しさはもうなくなっている上、全くの新作での共演。 今回改めて市川段治郎という役者への注目は高く、評価は大変シビアになっているかと思われました。 私、贔屓目になるので…ですが、ソレを差し引いても及第点!ではナイでしょうか?! 事実ココまで演じられるとは思っていなかったので、ホッとしたとイイますか。 もっとココを、と思う所も多々でしたが…あえて作り込む事なくサラッと演じているのかも。 「姉上、あねうぇ~♪」と無邪気な笑顔で真っすぐに突き進む姿は確かに少年であり、二人の中を阻む者に対するOUT OF 眼中っぷりは駄々っ子のよう。 「どうして?どうしてイケナイの?」ってな一途さが次第に狂気を帯び、その笑顔が恐くなってきたのには驚きました。 ただラスト、蓮介とのメリハリがもう少しあったらより効果的だったかも…と思いました(何様発言、失礼!)
私、段治郎さんの歌舞伎以外の舞台を拝見した事がナイのですが、その時の経験が今回のセリフ劇に活かされているのでは?と思われました。 ちなみに初めて拝見した直衣に烏帽子の王朝もの拵えはお似合いで、ゆうに3mはありました(ウソ!)
右近@照夜
右近さん@照夜の前は…多分、ご覧になった方誰もが「右近さん、イイんじゃなぁ~い♪」と思ったかと。 私自身、右近さんの女形は初めて拝見したのですが、イイ! 独特な…右近臭が消えている…というと語弊があるかもしれませんが、なんというか良い意味で『右近さんではなく、息子を溺愛し義娘を憎む照夜の前だった』という感じ。 以前も、玉三郎さんのご指導で演じられた時(土左衛門伝吉@三人吉三・2005年9月博多座公演)同じように「右近さん、イイ!」と思ったんです。 セリフもすごくクリアに聞こえるし。 猿之助さんの…だと、どうしても師匠をなぞり過ぎ…というか特にセリフは独特な節が付いて不明瞭になったりで、私は気になる部分が多くて~。 今後も機会があればいろんな方のご指導で、立役だけでなく…というお役で拝見させていただきたいです!
笑三郎さん@乳母月絹。 昨年7月の泉鏡花祭り?は拝見していなので…ですが、玉三郎さんと共演される時は、いつもそのお役に付き添っている設定が多いですよね。 しかも同年代か年上で…それが自然で。 玉三郎さんが若いのか?笑三郎さんがフケ…いやいや、どちらもですか。 今回も手堅く好演。
春猿さん@紫の前。 春猿さんに【艶】を感じる事は多々ありますが、【品】を感じたのは今回が初めてでした。 初瀬の実母として、菩薩のような存在感をあの僅かな時間に醸す事は大変難しいかと思われますが、素敵でした。 メイクも玉三郎さんのご指導があったのでしょうか?お役のせいでもあるでしょうが、ちょっと春猿さんじゃないみたい。 初瀬に救いの手を差し出し包み込む様は、アルディス姫@ふたりの王女(byガラスの仮面)を連想しちゃいました☆
すごく面白かった! 出来るなら後半にあと1回観劇したかったです。 きっと進化していろいろな部分が深まって、より説得力が出できたんだろうなぁ…と思われました。

通し狂言・梅初春五十三驛【国立劇場】

国立劇場開場40周年記念として166年振りの復活通し狂言の上演!
江戸後期から明治にかけて、東海道を舞台に物語が展開する…いわゆる【五十三次もの】が多く作られ、この作品もそのひとつだそうです。
『京の都から、お江戸日本橋まで奇想天外の五十三次』というキャッチコピーの元、“梅初春”とお正月にふさわしい外題も付いて、華やかで大胆、笑いの要素も加えた菊五郎劇団テイスト溢れる舞台
名作狂言のパロディ随所に散りばめてあるので、知っているとより楽しめるけど、そうでなくてもそれなりに♪ しかし約5時間弱の上演時間は…5幕13場という構成もあってブツブツ切れる感じと詰め込みすぎな印象はいなめず、肝心の“通し狂言”としての筋が通ってナイ印象で「はて?あらすじは…?」と思ったところで、まとめるのは至難の技! 役者さんも一人何役もされているので混乱してきますし汗 ひとつひとつの場を独立の狂言として楽しめば、各々の場は大変凝ったもので随所に見応えが設けてあるので、それが13場もあるんだから…それはそれは賑やかな舞台であった事は確か! 場ごとに各々の土地の雰囲気を表現していた舞台美術も目に楽しく、理屈抜きで「あ~、面白かった、綺麗だった☆」って…コレでイイんだと思います♪
特筆したいのは…以下3場 鉛筆

二幕目【岡崎 八ツ橋村無量寺の場】

パラパラ子猫
五十三次ものには欠かせない“化け猫”。 菊五郎さん@猫石の精霊が老女姿ながら行灯の魚油をペロペロと舐める趣向は古典そのものですが、その魚油に喜ぶ4匹の子猫ちゃんたちが登場し【NIGHT OF FIRE】でパラパラをひと踊り。 その可愛らしさに客席が大いに湧きましたが、梅枝さん@茶屋娘おくらの「あ~れぇ~!」「じゃと言うてぇ。今、猫がぁ~、どうやら立ってパラパラを~」というセリフが一番効いていたかと♪ 梅枝さん、最近の努めて舞台に立たれている成果が出ている(と言うと何様な表現ですが)印象で、パラパラと言いつつきちんと歌舞伎味が残っているセリフ回しで感心しきり!

三幕目【白須賀 吉祥院本堂の場】

お寺での勧進芝居【車引】。 大道具に…と神社の鳥居を勝手に引き抜いて持ってくるわ、死人を入れた棺桶を引く大八車を輿に…と拝借してくるわの無茶苦茶ぶりが笑えます。 小道具や衣装は村人たち自らが用意したようで、小学生の工作のような鬘がナイス☆ 田之助さん@庄屋の左衛門は桜丸でして…本役では観れない嬉しさと(可愛いの!)、この場だけの人間国宝の登場に“豪華なお年玉”という感じで嬉しい♪ この場で客席への手拭い撒きもありましたし☆
三津五郎さん@所化弁長(軽やかスキップ健在!)の義太夫×三津右衛門さん@女房お豊の三味線が、可笑しいながらも本気で上手いっ!

大詰【御殿山の場】

満開の桜の下で大勢の捕手に囲まれて大立ち廻りの菊之助さん@白井権八。 菊五郎劇団のみせどころ!とばかりに、アクロバティックでスピーディーな、でもって絵のように美しい型が次々と決まって拍手☆ “ザ・歌舞伎”な一幕
附け打ちさんの後ろで(舞台袖奥で)もう一方、全く同じ動きを(手で膝を打つ)していた方がいらっしゃったのですが…この方は“附け打ち見習い”さんだったのかしら?と、気になりました。

元禄忠臣蔵・第一部【国立劇場】

国立劇場開場40周年記念”(緞帳も新調☆)で全10篇からなる壮大な昭和歌舞伎の傑作・真山青果作【元禄忠臣蔵】を、3ヶ月にわたる連続公演!史上初の全篇通し上演!、そして大石内蔵助は月替わりという嬉しい企画。
10月・第一部(江戸城の刃傷・第二の使者・最後の大評定)=吉右衛門
11月・第二部(伏見撞木町・御浜御殿綱豊卿・南部坂雪の別れ)=坂田藤十郎
12月・第三部(吉良屋敷裏門・泉岳寺・仙石屋敷・大石最後の一日)=幸四郎

私【元禄忠臣蔵】はこの度初めての観劇。 やはり忠臣蔵モノは人気なんですねぇ~。 国立劇場の客席がこんなに賑わっているのに遭遇したのは久し振りかも(しかも平日の昼間なのに)
とにかく舞台美術の立派さとセットの使い方に感嘆! まず幕開きがたった今、松の廊下にて刃傷が起こり大騒ぎになっている様子。 舞台奥の廊下には大名が走り回り、負傷した吉良上野介を抱えながら駆け抜けていく…。
江戸城のスケール感が見事に表現されていて、一気にお芝居の中へ気持ちがグッと入りました。前半は舞台というより、映像作品を観ているような…そんな感じでした。
歌昇さん@多門伝八郎 歌昇さんって…武士姿が歌舞伎役者の中でも特に似合う役者さんだと思っている私ですが(鬼平で見慣れているせい?)今回もキリリと力強く『天下御大政の為の喧嘩両成敗』と主張する様はいつにも増して、りりしい武士ぶりで説得力がありました。 信二郎さん@片岡源五右衛門へ、梅玉さん@浅野内匠頭への“主従今生の暇乞い”を許し、庭で控える源五右衛門の存在を、それとなく内匠頭に気付かせる計らいは、正義に情に厚い伝八郎その人そのものであるかのようで心を掴まれました。
主従二人が無言で見つめ合い、泣き伏す源五右衛門と共に涙がとまらず…実に感動的なシーン。 セットも両袖に満開の桜がしつらえ、屋根上にも散った花びらが数枚…という細かい演出で、絶命の時ハラハラと散る花びらにまたしても涙。 照明も悲劇を演出する暗さというか、そんな空間でした。 涙、涙。
私の中では大石内蔵助=吉右衛門さんなので拝見するだけで満たさせるものがあるのですが、最大の見せ場【最後の大評定】では…残念ながら汗
初日開けて間もない上、全編通して膨大なセリフの応酬劇である事を差し引いても…ちょっと…プロンプ付きすぎで、萎える汗 最後に残った56人のうちの一人として、内蔵助の決断に命預けます!という思いで気持ちを寄せて聞き入りたかったのに…悲しい
出来ることなら、公演期間後半に観劇したかった(吉右衛門さんに限らず)
ま、しかしながら3ヶ月連続公演のスタートとして実に見応えがある幕開き公演で「続きが観たい!」と思わさせるものでありました。
今回はお子様方が印象に残りました拍手 セリフもしっかり入ってたし(毒舌)汗
種太郎くん@大石松之丞 最近意欲的に舞台にご出演されている成果が出ている、というと何様な感想ですが…セリフの量に負ける事なく松之丞となっていました。 今後のご活躍が本当に楽しみ。
隼人くん@井関紋左衛門 変声期で不安定な為ちょっと気の毒ではありました。 というのは、必死になればなるほど“軟弱で聞き分けのナイ男子”のように見えてしまって、観客の笑いが起こってしまって…。 本人はコミカルな笑いを取る演技をているつもりは、ナイのでしょうから。 しかしだからこそ父親・富十郎さん@井関徳兵衛に殺されて(心中)しまった悲劇は際立った印象も。 全編通して重~い舞台が続く中、笑いの提供は私的には有り難かったです。
芦村瑞樹くん@吉千代 けなげ! 幼いながらも内蔵助の次男としてのきちんとした自覚があり、懸命に仇討ちに加わりたいと願う熱意に涙が誘われました。 心が洗われるような感じ。 上手いっ!
そしてこの枠に入れるのはもはや…ですが、亀寿さん@磯貝十郎左衛門。 心情を絶叫し泣き伏す様は、城内が人々が今どういう状況であるかがハッキリ解り、一緒に内蔵助の判断を一刻もあおぎたい!という心持ちにさせられます。 好演!
観終わってひと言「ちょんまげオンパレード」。 城内での出来事に終始するのでとにかくひたすら、侍、侍、侍。 ですので芝雀さん@妻おりくの登場でどれだけホッとさせられたか~♪ 私、歌舞伎が好きな要素として“色彩美”の比重が大きく占めているのですが…それはこの演目には望めないんですね汗
ちょんまげ大集合

當世流小栗判官・第二部【国立劇場】

乍憚口上

段治郎さんが口上(ナビゲーター)。 登場人物達が寸劇形式で一部の見せ場を断片的に紹介するスタイルを取っており「…という第一部、すでにご覧になっているとは思いますが~、万が一ご覧になってナイ方は是非」というフォローも忘れない。 今度は全員がお辞儀をした状態からクルリと盆が回って三幕目に突入。 「おぉ~!今度はそうきたかぁ~」

三幕目

春猿さん@お駒右近さん@小栗に一目惚れする様は、目の中はハートで頭からポワワ~ンとハートが立ち上っているようで可笑し味がある。 ちょっと【与話情浮名横櫛】木更津の“見染め”を思い出した。
久し振りに再会した小栗と笑也さん@照手姫だったが、事情により姫はお駒の上で下女として働いていた。 本来、小栗の許嫁である照手姫は、小栗と祝言を挙げるお駒に激しい嫉妬心を燃やし、照手姫お駒の女の火花がバチバチ。 ここで照手姫がちょっとイヤな女に見えるのは何故だろう? お駒の末路が可哀想すぎるからだろうか? 一心不乱に小栗を求め、絶命の後には化けて出る執着心は恐ろしくも哀れで、春猿さんが好演。 こういう怨念を持つタイプのお役って、ハマる方なのでは?
笑三郎さん@お慎。 いつも笑三郎さんを観て思う事は「ソツなく上手い。とても器用な方だなぁ…」という印象。 でも「笑三郎さんと言えばコノお役!」という決定打がナイような。 今年6月の三越歌舞伎で油のお吉をされるそうなので、コレに激しく期待(観れないけど)

大詰

【熊野湯の峯の場】は私がスーパー歌舞伎で印象に残っていた場。  でもって、今回その演出に一番意表を突かれた場! 一面の雪景色の中に映える赤姫姿の照手姫が、お駒の恨みから体が不自由になり動けなくなった小栗を躄車に乗せて引きながらの道行の舞踏とは~。 色彩の鮮やかさが印象的で、その美しさが小栗の哀れさを引き立たせる効果があった印象(で、でも照手姫の踊りが…以下自粛)
霊湯で回復した小栗は上意を受け、宿敵を打つため一路、常陸の国へ急ぐ。 ココで“天馬宙乗り”という事にあいなるのであ~る。 これは猿之助さんが映画【E.T】から着想されたそうで、作品の見せ場。 小栗と照手姫を乗せた馬は天を駆けて常陸の国へ…という趣向。
しかし、騎乗の二人が役を離れて観客サービスに徹している印象が強く、個人的には不愉快だった。 演出のひとつの手法である訳で“小栗と照手姫”でなければならなのでは?と。 喜びと勇みが全面に出ているべきなのでは?と。 話の筋上、宙乗りであってもおかしくないのだけれど、こんなに観客に媚びるものであればいらない、そう思った。
ラストのラストは…大量の雪がドッサリ、ビックリ、美しく印象に残る。
この演目、一部は春~夏、二部は秋~冬…という季節の移り変わりがあり、美術の美しさも堪能できるのも見所

當世流小栗判官・第一部【国立劇場】

実は…古典の【小栗判官】を観るのは初めて。 過去一度、京都南座(’92年3月公演)にてスーパー歌舞伎の【オグリ】を観ただけで、この時は“スーパー歌舞伎初体験”だったもので、ただもう圧倒されて「スゴイスゴイ」という記憶しかなく、歌舞伎自体にも全く馴染みがなかったので、ストーリーとしての記憶は今イチ残っておらず。 何故かしら一番記憶に残っているシーンは照手姫が判官を躄車に乗せて引いている…という寂しいシーン(他が派手だったから落差が印象的だったのか?)
予習の足しに…と、この時の筋書きを開いてみると…門之助さんの襲名と猿十郎さんの名題昇進のご挨拶が掲載されており…猿十郎さん偲んでしんみり
さて、今回は昼と夜の二部制。 そうするだけの意味ある舞台である事が期待される訳であり、どちらかの部だけでも楽しめ、またもう一方も観たくなる…という価値が求められる訳で公演形態としても新たなチャレンジ! 観劇料金やイヤホンガイド利用料では“通し割引料金”が設定されたり、一部、二部とも冒頭に口上をつける事に工夫も。 口上では「もう一方の部も必ずや観ていただけるかと」と宣伝も忘れないご愛嬌☆
一日通し観劇をした印象としては、一部に軍配…かな

乍憚口上

壮大なスケールのファンタジック時代物の大筋や人物関係を口上でもって、右近さん、笑三郎さん、春猿さんが解説。 澤瀉屋一門の口上だなんて今後も滅多にみれる事はナイ貴重な機会だろう…と、初めてみるその姿は爽やかな浅葱色の裃で初々しささえ感じられる。
「もちろん第二部も観ていただけるとは信じてはおりますが…」とユーモアも交え解りやすく解説し終えると、大セリがスッと下がって舞台をはけていく。 これには「お~っ、そうきたか」と早くもこの舞台の意表をつく演出にボルテージが上がった!

発端~序幕

御家騒動の発端から、馬術を得意とする小栗判官が荒馬を乗りこなし“碁盤の上での曲乗り”の見せ場まで。
歌舞伎の演目で馬が出てくる演目は数あれど、ここまで馬自体がアクロバティックな動きをするものはナイのでは? 馬役(っていうの?)さんの奮闘振りに拍手の連続☆ 馬の表情さえも変わって見えてくるから不思議。 後ろ足で立って、前足を上げる“ヒヒィ~ン体勢”は前足役の方の負担が大きいんだそうで、二人の呼吸の合せも訓練の賜物なんでしょうね。 その上にまたがって「ハッ!ハッ!」と涼しい顔でかけ声をかけているだけ(だけじゃないんだ、乗り手もきっと大変なんだ)右近さん@小栗判官。 「馬役の人、大変なんだからもうちょっと手加減してやってよ~」と軽い憤りを感じてみたり?
“馬相”=馬の良否の見分け方…という言葉、初めて知った!

二幕目

忠臣達による決闘シーンがメイン。
段治郎さん@浪七門之助さん@お藤。 この二人が夫婦役って…初めて拝見したような? 「来世でも夫婦に…」と誓う程、二人の間に愛は感じられなかったのは残念。 猿弥さん@鬼瓦の胴八は愛嬌のある悪党で、従来の猿弥さんの範疇のお役であろうし、手堅い印象。 借金取りに身ぐるみ剥がれて裸腹に着物を巻き付けての登場は、歌舞伎でそんな出で立ちって観たことナイから、えらくツボ。 肉襦袢?の胸がミョ~にリアルなのも笑える☆
かつては三枚目の橋蔵と二枚目の小栗を同じ役者が演じる…というのが通例だったそうで、この度は右近さんが! 事前にその事を知らなかった私は、花道の引込みまで「誰だ?この芸達者な人は?!」と思っていたほどの化けっぷり(見た目臭ってきそうに汚い…)。 ちょっと演りすぎの感はいなめなかったけど、楽しい息抜きの時間。
【浜辺の場】段治郎さん@浪七、オンステージ☆
遠ざかる船を小高い丘から必死に呼ぶ様、丘が盆の上で回る様は俊寛であり、自らの腸を取り出し瀕死の状態ながらもの胴八との斬り合いは壮絶で、知盛を彷彿とさせ迫力満点。
岩肌を豪快に流れる鮮血とラスト頭から丘を滑り落ちる演出は衝撃的であり、劇的な幕切れの…まさに“大出血サービス”だ!!
個人的には、あの大舞台でスケールの大きな芝居を一人で演じる時間も長く、そんなダンジロさんを観て「立派になって…」と胸がいっぱい。 涙悲しい
とはいえ、浪七(実は美戸小次郎武継)の前半の人となりの描かれが薄く、自分の命を投げ出して照手姫を取り戻すという忠義ぶりが唐突な印象が残った。
ここで、浪後見さんたちの奮闘ぶりも是非書き添えておきたい!