壽新春大歌舞伎・夜の部【新橋演舞場】

義賢最期

こういうお役で拝見すると「やっぱり主役を張る華のある役者なんだなぁ」と思う海老蔵さん@木曽先生義賢。 いつも自分の台詞まわしに酔っているような印象があって、歌うように滔々と述べる口跡は聴き取り辛くて苦手だけど、迫力の立廻りでカッと決める見得はやはり絵になって美しい! 隣席の方は初観劇だったようで【戸板倒し】や【仏倒れ】で、肩をビクッとさせて息を呑んでいたのがイイ! 右之助さん@葵御前って、右之助さんの女形って、ものすっごく久し振りに拝見!新鮮! 猿弥さん@矢走兵内笑三郎さん@小万はソツなく、米吉さん@待宵姫は本当に愛らしい♪ 中車さん@下部折平実は多田蔵人、やっぱり歌舞伎って…すごく特殊なお芝居様式?なのかなぁ、としみじみ。

三代目市川右團次襲名披露 口上

市川右近改め三代目市川右團次襲名披露、二代目市川右近初舞台です。
下手より、門之助中車右近右團次梅玉猿之助男女蔵右之助海老蔵。 81年振りの右の誕生に、左團次さんのご出演と挨拶を楽しみにしていたら「歌舞伎座出演ですので代わりに私が出演」とは男女蔵さん。 海老蔵さんは「古典の時は仁丹、スーパー歌舞伎の時はフリスク」とTVで言ってたエピソードを披露。 右近くんは今舞台で“宙乗り”と“早替わり”を最年少で!らしく、その堂々とした挨拶にも大きな拍手が♪ ず〜っと応援してきた者からすると澤瀉屋から屋号が変わることが、とっても寂しく思っていたけど、今公演を観て、なんかいろいろと安堵。 「高嶋屋〜!

錣引

新・右團次さんの襲名披露狂言で『源平合戦の時代、双方の英雄が兜の“錣”というツバの部分を引き合い力比べをする』というお話。 “しころびき”私、初めて観ました。
右團次さん@順礼七兵衛実は悪七兵衛景清(平家)×梅玉さん@虚無僧次郎蔵実は三保谷四郎(源氏)で、テンポの良い踊りで兜をひっぱりあう様は、様式美に溢れていて楽しい♪ また九團次さん@木鼠次段太×米吉さん@伏屋姫の重宝の奪い合いでは、姫が果敢に向かっていく様に、思わず拳を握って「頑張れ!」と思ってしまう可憐さ☆
ラスト、右團次さんの飛び六方での引っ込みに「髙嶋屋!」「三代目!」大向うと大きな拍手。 すごくお目出度いんだけど「もう澤瀉屋じゃないんだ…」と改めてしんみりしながら、ん〜“襲名狂言”に合ってた…のか? 何故だか今ひとつシックリこない感じが残った。

黒塚

「猿之助さん(三代)の黒塚を生で観たい!観たい!」と思い続けて、ついにその願いが叶うことがなく…。 “何を演じてもソツなく上手い” 当代・猿之助さん@老女岩手実は安達原の鬼女なので安心して観ていられた…のですが、やはり“老婆”を表現するのは所作は出来ても“空気感”というか、枯れた感じ…というか表現するのは難しいんだなぁ、と。 ゆっくりとした動きで常に膝を曲げて、というあの体勢は全身の筋肉を総動員しての大変な動きかと。 対して鬼女はさすが!
猿弥さん@強力太郎吾は、道化役なんだけど…関係ない場面でも客席から笑い漏れるのはちょっと気の毒というか、なんだかなぁ〜。 右團次さん@阿闍梨祐慶中車さん@山伏讃岐坊門之助さん@山伏大和坊

壽新春大歌舞伎・昼の部【新橋演舞場】

81年ぶり名跡復活!! 右近改め三代目市川右團次+三代目市川右團次襲名披露興行でおめでたい新橋演舞場。 …とはいえ、澤瀉屋一門の代表格的な存在であった右近さんが“髙嶋屋”になるのは、ちょっと…いやかなり寂しい私。 おめでたい事だとは解ってるんだけど、うん。
観劇日当日、10時に羽田着で11時開演…って、やっぱりちょっと無謀だった。 周辺のお席の方、ご迷惑かけてすみませんでした。

雙生隅田川

通し狂言です。 “三代猿之助四十八撰の内”との事だけど、私、初観劇。 「梅若丸伝説」を素材にしているそうで、人間×天狗で繰り広げられる壮大なお話。
猿之助さん×右團次さん×右近くんの【三人宙乗り】 ! “6歳で宙乗り”というのは最年少だそうで(夜の部では“早替り”最年少!)、しかも乗ってる最中、落ちそうになるお芝居まで演ってのけるとは〜! 客席の「三人で微笑ましいねぇ」という空気が一転、悲鳴にも似た声が上がった! 右近くん、恐るべし。

右團次さん@猿島惣太後に七郎天狗/奴軍介は感情のブレも、立ち廻りも激しいドラマティックなお役で襲名披露公演の奮闘ぶりが相応しい力走。 折檻して殺してしまった子供が若君と判明し、使い込んだお家の金を工面しようと長年貯めていた金を天井を突いて、家中に小判を降らせる演出がダイナミックで絵的に、音的に面白い! そして天狗に変身! えっ?なんで? 大詰の【鯉つかみ】の本水の大立廻りは、あまりにも詰め込みすぎて、動きにキレがなく「だ、大丈夫?右團次さん?」 最近はデッケェ仇役的な感じが続いていて、その貫禄が安心して拝見できる事に少し寂しさも感じていたけど、キビキビした若武者の口跡と動きに“澤瀉スピリッツ”的なものを感じることが出来て嬉しかった。 襲名心よりおめでとうございます。

右近くん@梅若丸/松若丸は、今まで私が観た初舞台のお子さんの中で一番しっかりとしていて、立派にお芝居をしていて、とにかく感心した! その裏には厳しい厳しい大変なお稽古があったんだろうなぁ…と察せられる立派さで、ちょっと涙を誘われることも度々。 6歳って! 6歳なのに二役って! いや〜、ただただ感心。 彼自身もホント頑張っただろうけど、梨園出身ではない右團次さんもご自身の襲名に加えて…とにかく大変だったろうなぁ、と。

男女蔵さん@淡路前司兼成。 男女蔵さんが左團次さんに似ている…と今まで一度も感じた事がなかったけど、今舞台の憎々しい仇役を拝見してビックリ! 声がこんなにもソックリだったなんて驚いた〜。 猿之助さん@班女御前海老蔵さん@県権正武国、この度の襲名、この親子に力を貸してくださり有難うございます〜、という身内じゃないけど、そんな感想をもってしまった! そして笑三郎さん@局長尾猿弥さん@勘解由兵衛景逸に、これからもどうぞ宜しく〜、と、身内じゃないけど!

スーパー歌舞伎II〈ワンピース〉頂上戦争編【新橋演舞場】

まず【アラジン】遠征だったので…「歌舞伎があってたら空いた時間に観てみよう」くらいで居たら、猿之助さんが【ワンピース歌舞伎】の上演発表! これは好都合!とチケットを探した時は手遅れで、平日夜の部ながら、激しく見切れる下手左側。 かなりの部分が不鮮明なモニターでの観劇でした(きっと博多座に来る!と信じて試し観劇)
いつもと違う客層は限定グッズに群がったり、劇場内の各場所で激写したり…とそれを見るのも新鮮な感じ。定式幕のデザインは可愛かった♪歌舞伎仕様・ルフィ
私は大人気の原作は気になるものの既本がすごい巻数なので、それにひるんで今まで手を出したことがなかったのですが、事前に20巻まで予習(今舞台の【頂上戦争編】は未読)。 一応、原作を知らない人でも解るように…と作られたようですが、登場人物が多過ぎて、目には楽しくとも少々混乱気味。

一言で感想を述べると「スーパー歌舞伎というよりは“いのうえ歌舞伎”に近かった印象」。(三幕目は「粟根さん?!」なキャラも登場するし) なぜだろう?お遊びやお笑いの部分が多かったから? 音(音楽・効果音)なのか?

古典歌舞伎の早変わり、宙乗り、狐忠信的な階段登場のケレン味や、先代猿之助が創り上げたスーパー歌舞伎の手法…雑技団の皆さんの旗振り火、容赦ない紙吹雪、本水での立ち廻りなどをなぞりながらも、プロジェクションマッピングや音楽、映像の投影、どこかのミュージカル作品で観たことあるあるな手法もてんこ盛り。 ず〜っと猿之助さんがやりたかったであろう手法をふんだんに取り入れられ、ラスト、朝日が地平線から登る手法は「あ!ライオンキング」と声を出してしまった私。 キャラクターがズラリ板付きで上がってくる様やツラネは“ザ・歌舞伎”で大興奮!ワンピース歌舞伎
対して、この作品の為に書き下ろされたというゆずの 北川悠仁さんの曲が、作品を通しての毛色とは異質でそれまでの話の流れを断ち切るようで…う〜ん。 あの曲で宙乗り出来る猿之助さん、凄いわ。 くじらは驚いた!良かった! あれは1階席で見上げてみたかったなぁ〜。

三役でフル回転の猿之助さん@ルフィーはハンコックへの早変わりのせいでしょうけど、手足が真っ白いのがどうしても違和感。 絶世の美女も“眉鉢巻”が浮きに浮いて「え…っと」。 ハンコックの色香にバッタバッタと倒れる様は、セクスィー部長の光線並だった! そして、シャンクス…小さっ。
他はキャラクター達は“気合いの入った本気のコスプレ”で、そこそこ違和感なく上手く歌舞伎風味にアレンジされて◎
一番歌舞伎味が強かったのは猿弥さん@ジンベエ/黒ひげと右近さん@白ひげ。 この二人がグッと歌舞伎に引き寄せてくれた印象です。 白ひげ、知盛でしたっ! 凄く「でっけぇ」感じで、場に重みが増した感じで好演。
春猿さん@ナミが登場時に片肌脱いだ時にブラと胸の谷間線が見えて「おおっ!」と客席がどよめいた〜。 

上演回数を重ねてこれからどのように進化していくのか楽しみ♪
ぜひ原作ファンの方の感想を伺いたいものです。

三月大歌舞伎・昼の部【新橋演舞場】

何故だか…帰りの飛行機の時間を間違ってチケットを取ってしまうというドジを踏み~【山科閑居】の観劇半ばにて劇場を出で羽田へ挫折
故に【荒川の佐吉】のみ、おぼえ書き。

荒川の佐吉

歌舞伎を観て、久々に泣きました。 お隣の方がお連れと「新歌舞伎にしては面白いわね」っておっしゃってて、大きく頷く~。 多分、私、この演目も初観劇。 今月の演舞場は特にお目当ての役者も演目もなかったのですが、結果“初観劇”の演目が多く、すっごく楽しめました(自身のドジ除く)
スリの言いがかりをつけられて舞台中央に転び出る芝のぶさん@町娘に「おっ♪」と喜んでいたら…アッという間に退場で涙。
染五郎さん@荒川の佐吉は初役との事。 前半のチンピラ風情は無理してイキがっている感じの小物っぷりが伺え、父性が芽生えた人情部分では愛情と友情、仁義との間で揺れる様がとても良く引き寄せられました。 梅玉さん@成川郷右衛門との問答「強いものが勝つのか?」「勝つものが強いのか?」というのが耳に残るセリフでした。 寒空の下、乳飲み子・卯之吉を抱えて橋のたもとで咽び泣く姿に胸が締め付けられ印象的(この場で「おいなりさーん」って売り歩くいなり売りって初めて見た)
木琴って先月の博多座で“歌舞伎では初めて見た小道具”と思ってたら、大きくなった盲目の卯之吉が使ってました(私が今まで気に留めてなかっただけで、定番の小道具?) 佐吉が息子としてとっても可愛がっている様、卯之吉が父して慕っている様がすごく伝わってきてニッコリ
それは亀鶴さん@大工辰五郎の好演が大きく作用している部分もあるかと。 も~う、とにかく亀鶴さんが良かった!! 上方の役者さんというイメージが強かったので、ここまで江戸っ子風情がお上手だとは!という驚きと、腕のいい大工だった佐吉をいまだに慕って親子を助けている様に、佐吉の人となりががより引き立つと言いますか…。 この三人が力を合わせてそれなにり幸せに日常を送っているところにきて「あまりにも勝手では!」と憤りを感じてしまう福助さん@丸総女房お新申し出に佐吉と一緒に猛烈な憤りを感じてしまうのは、前段の三人の好演があってこそ!でしょうね。
錦吾さん@成川郷右衛門の親分も貫禄充分。 宗之助さん@極楽徳兵衛の若手チンピラ風情が◎(チラシに役名までは載らないのね)
雨音が太鼓ではなく“団扇に豆”でしょうか? バラバラとリアルだったのが耳に残りました。

三月大歌舞伎・夜の部【新橋演舞場】

初めて“3階席左”というお席で観劇。 演舞場は“花道モニター”があるから大丈夫でしょ…と思っていたら~どっこい!「観えない…」。 常に座席には半座りで身を乗り出して観劇…とかなり辛い体勢。 花道はモニターで観れるけど、そのちょい舞台寄りの下手の様子は全く見えず、こんな時に限ってやたらと下手での芝居がかった…。 失敗。

佐倉義民伝

観たことあった認識でしたが、初観劇でした。 雪深い船着き場は底冷えのする寒さが伝わってくる空気感。 幸四郎さん@木内宗吾左團次さん@渡し守甚兵衛のやり取りは心で結ばれた主従関係が伝わってきて良かった♪ 左團次さんの“イイ人”って珍しいからか、たま~にされると“胡散臭いな”と思う事が多いですが、今回はまったく感じられずとっても良かった☆ 農民を救う為、今生の別れを告げようと密かに帰郷した宗吾を迎えるのは福助さん@女房おさんと子供達の清貧家族。 幼い子が三人も…と思いきや、もう一人乳飲み子が居たとは! 久々に帰宅した父親に次男がベッタリ膝にだっこされているのなんともが微笑ましく「こんな可愛い4人の子供達を置いて逝ってしまう覚悟とは~!!」と、不条理さを感じ過酷な課税を憎む宗吾と佐倉の農民と同じ気持ちになって見入りました。 金太郎くん@宗吾長男彦七のすがりのセリフは量も多いし大健闘! 「子供ってちょっと見ぬ間に、アッという間に大きくなってるわね~」と親戚のおばちゃん感覚で見守る感じでした。 「家族の縁は一代のみ。もう二度と会わない」と家を後にする美術が素晴らしい☆ 長男彦七ひとりが外まで宗吾にとりすがり、他の家族は家の中から格子越しに涙で見守る…という、すごく心に染み入る演出で、辺り一面が銀世界である事も大きく作用していたかと。 【塗炭の苦しみ】=ひどく苦しい様泥や火の中にいるようなひどい苦しみ、という言葉を初めて知りました。
彦三郎さん@松平伊豆守って、彦三郎さんを久々拝見し、あの朗々としたセリフ回しが耳に懐かしく感じました。 宗之助さん@稲葉丹後守、宗之助さんの立役は…こちらも久々!と思っていたら今月は立役のみのようで(ですよね?) 声、りりしくてイイですよね♪ で、幸四郎さん、良かったです。 どうしても苦手意識が先行してしまうのですが、このところ「あ、また幸四郎さん…」→「お!幸四郎さん、イイねぇ」が続いている私。 合う演目・合う役柄になれば、そこは!なんでしょうか?(生世話は…やっぱり)

唐相撲

初めて観ました。 狂言をもとに、言葉の通じない異国人同志が相撲で親睦をはかる…という内容で、お芝居の間の楽しい舞踏として人気がありそうなのに、上演回数はひどく少ないんですね。 松葉目モノ…だけど唐風の様式で目に不思議。 中国側の人物は全てインチキ中国語でまくしたてる感じで、左團次さん@皇帝は激しく胡散臭くて笑えましたが「LOVE注入☆」「キャイーン」というのは…どうだろう? なんか一気にサーッと気持ちが引くものがあり、上演回数が少ないのも頷けた気が~。 貝づくしの酒宴の様が面白かったです。

小さん金五郎

上方の世話物なのに…秀太郎さん@女髪結お鶴しかその風情がナイというのがなんとも寂しい感じ。 ですが、もうその秀太郎がおひとりで全部持っていった~!!という、秀太郎さん好きとしては最高に満足な一幕。 梅玉さん@金屋橋の金五郎を見つけた時の片足ピョコン止まり(参:まいっちんぐマチコ先生)は狛犬に頭を打ち付けた時も再びで、も~う可愛い! 上手いっ! 釘付けです! 左腕に“金五郎命”の彫り物は…あの後どうすんのさ、お鶴さん。 いちいちクールな突っ込みをしてくる伊集院茉衣ちゃん@髪結弟子お千代、かわいい!可愛い♪

金五郎×お鶴、お鶴×松江さん@太鼓持六ツ八実は木津屋六三郎、お鶴×時蔵さん@芸妓額の小さんの以上のセリフの繰り返し、オウムが面白かった。 三回目なんか心の中で一緒にセリフ、言っちゃってました。
梅枝くん@芸妓大村屋お糸時蔵さん@芸妓額の小さん美人親子ツーショットは「これ、実は父息子なんだよなぁ…」と思いながらも目の前の美しさにため息☆
イヤホンガイドの解説で疑問が2点。 当時、金五郎の「髪結いの手は油だらけ」というのが名ゼリフとして流行ったらしのですが…どこにウケの要素が? でもって『傘の立廻りは艶かしい』との事でしたが…どこが?
團蔵さん@広瀬屋新十郎×梅枝くん@芸妓大村屋お糸、梅玉さん@金屋橋の金五郎×時蔵さん@芸妓額の小さん(実は許嫁…ありがちありがち)、松江さん@木津屋六三郎×右近くん@千草屋娘お崎の3カップルを目の前にして、ロンリー秀太郎さん@女髪結お鶴。 寂しく去る後ろから「松嶋屋の姉さん、お疲れさまでした~!」 やっぱり“姉さん”なのね。