大向う『初音会』会長ご逝去の報に接し

上方の歌舞伎大向う『初音会』会長をされていた岩城重義さんが、9月8日ご逝去されました。
ご遺族の『TwitterやFBで故人を偲んであげてください』とのご意向により、こちらで偲びたいと思います。

私は自分のご贔屓・成駒屋さん(現・成駒家)の応援を通じて、岩城さんとご一緒する機会が何度かあり、関西の劇場ではもちん、その他の劇場でも度々お見かけし、その大向うが響く舞台を観劇した時は、絶妙のタイミングでかかる心地良さに、舞台への興奮が募りました。
今年の【六月博多座大歌舞伎】、藤十郎さんは口上だけのご出演でしたが、岩城さんは来福され、観劇後ゆっくりお話しする時間がありました。 今観た舞台の感想、役者個人への賛否、博多座の大向うについて、過去の名優の舞台の思い出…と長い観劇歴に裏打ちされた鋭い考察に「へぇ〜。」「そうなんですか?」と感嘆の間の手を入れるばかりで、そのマシンガントークには圧倒されっぱなしでした。 常に岩城さんの手にはステッカーをベタベタと貼り付けた愛用のiPadがあり、サクサクと画面を操作する姿が印象的で、6月の博多座滞在時にも精力的に写真を撮ったりメモ打ったりされて、全くいつもとお変わりないご様子だったので…まさか3ヶ月も経たないうちに訃報に接する事になろうとは思わず…。

歌舞伎が上演される関西の劇場では、岩城さんの声がかかる事はもはや舞台の一部にもなっていたでしょうから、観る側も演じる側もその声を聞けなくなった事は寂しさひとしおかと思われます。 上方歌舞伎が苦しかった時代はもちろんずっと応援してこられ、大向うで入る劇場に「今日はこちらで勉強させていただきます」と臨まれていた姿勢には頭が下がりました。

ご本人が想定されたいたより、ずっと早く向こうに行ってしまわれたはずですが、歴代の名優との再会にまた忙しくされている事でしょう。 こちらは随分と寂しくなりました。 岩城さん、沢山の楽しい時間を本当に有難うございました。

合掌。

葛の葉
写真は、博多駅くうてん9階【一木庵(いちぼくあん)】。 博多座こけら落とし公演にて三代目鴈治郎さん(現・坂田藤十郎さん)が【葛の葉】の舞台で書いた障子(裏文字さえ達筆!)が、表装されて壁面に飾られています。 岩城さんと訪れた最後の思い出の場所となってしまいましたが、素敵なお店なので歌舞伎ファンの方は訪れてみてください(夜はBarです)
恋しくば尋ね来て見よ 和泉なる信太の森のうらみ葛の葉