染模様恩愛御書【松竹座】

幻の傑作狂言・三世河竹新七作【蔦模様血染御書】を基として、この度染五郎さん×愛之助さん主演により復活上演(外題に“染”と“愛”を入魂!)
まだ発表されたばかり時のヴィジュアルはファイヤーな写真に二人の公式写真と【蔦模様血染御書】と興味をそそられる演目名が気になるけど…と、思っていたところに澤瀉屋一門からの出演も発表。 遠征決定!!
この度の上演は昭和10年1月以来だそうで、筋書きの上演記録一覧表はことのほか興味深く面白い! 今では全く馴染みのナイ劇場名や欠番?となっている役者名がズラリ並んでいて、外題もその時々でいろいろと変わっていて楽しい。
事前の広報活動ではノベライズとのコラボ企画もあり、いささかBL(ボーイズラブ)を強調したものではありましたが、観劇を終えて一言『“細川の男敵討”だった』
敵討ちをきちんと本筋に添え、武士道と忠義、愛情と友情、そこに陰謀を織り交ぜ、起承転結がテンポよく描かれていたうえ、ラストシーンには余韻も残る
座組も珍しいので目新しく新鮮な印象で楽しめた事も私的には大きな要因でした。
ちょっと疑問が残ったのが、敵役・横山図書(猿弥さん)の描かれ方。 “細川の男敵討”という主題になるほどの“大敵役”ではナイ印象で…。
不吉な刀を求めてしまった為に噂話を鵜呑みにし愛妻いよ(芝のぶさん)を手討ちにし、それを目撃してしまった印南十内(薪車さん)を斬ってしまう。その名字を名乗り(何故同じ名字を名乗るんだ?!)後添えに瓜二つの女性きく(芝のぶさん)を迎える…という図書。
講談では「彼はいささか短気なのがキズ」というような語りで片付けられますが、実はあの刀は妖刀であり、彼の意にはナイところで力が働いて…という事ではなかったのでしょうか? ですから、前半は“大敵役”という印象が薄く、悲しい運命に翻弄される男という印象(これはあえてそれが狙い?) 後添えのきくが大変慕っていた様から推察するに、それなりの人柄であったのではないかと思うのですが、だからこそ後半、いきなり“大敵役”な感じの演出にちょっと戸惑いました汗
染五郎さん@大川友右衛門に対して「本当なら私達こそ義兄弟」というような趣旨のセリフはとても効いていて好きでしたので、“計らずも敵方となってしまった運命のいたずらや哀しみ”を強調した方が私は好みかな。 でもお芝居としては“敵は悪者”とハッキリさせていた方が複雑にならず明快で良いのかもしれませんね。 猿弥さん、好演♪
セットは至ってシンプルな櫓仕立てで、表裏の二面をクルクルと廻り舞台で回転させ、スムーズに場面展開がなされテンポが良い♪
照明は従来の歌舞伎にはナイ斬新な使い方もあり印象的。 美術に関して色味を押さえているだけに、人物が際立ち、クライマックスの火事場では一気に劇場全体に色が染まった感じでその迫力が二倍増し! スチームや映像、火の粉などの迫力を全体に堪能するには…実は3階席の方があますところなく観れて面白かった♪
この演目のテーマ曲【愛の杜若】(←勝手にチープな命名)は…え~っと、ビミョ~汗
染模様恩愛御書
染五郎さん@大川友右衛門 この人となりが今イチ解りません。 これまでの身分を捨てて数馬と義兄弟の契りを結びその敵討ちに尽力する…というくだりは愛ゆえの事と納得ですが、その間(4年間?)実の妹と音信不通ってどういう事? ま、一番ビックリしたのは“長持の中で袴を履いた事”でしたが。 数馬に越中守を守護するように言い残して、火の海へ御朱印状を取りに向かう死を覚悟した去り際の気迫は素晴らしかったです!
愛之助さん@印南数馬 久々に女形を拝見したくなった!そんな印象でした。 友右衛門からの文にドギマギする様、返事を投げて階段から様子を伺う様などは“乙女”でした。 情けを交わした後に敵討ちの助太刀をねだる様は“女”でした。 殿様の前ながら、焼け焦げた友右衛門の亡骸に泣きじゃくりとりすがる様は“女房”でした。って、ココがすご~く良かったです! 彼の友右衛門に対する愛がどんな際どいシーンよりドキドキして、強く深く感じられてとても感動し、涙がそそられました! 「あんたぁ~、あんたぁ~!どうしてアタシを置いていっちまうんだよぉ~」って聞こえて…きそう…んな事はナイ汗
春猿さん@腰元あざみ 恋敵が男と知ってキリキリと苛立つ様、意地悪になる女心はすごくリアルで笑ってしまうほど。 数馬が好きで好きで…という気持ちからの愚かな行動に出る哀れさも共感でき、だからこそ最期は潔く自害させてあげたかったなぁと思ったのですが、これは同性ならではの意見でしょうか? 春猿さん、このお役と~っても合ってます♪
段治郎さん@細川越中守 出で…今まで感じた事のナイ“貫禄”が備わっていてビックリ!(少しお顔がふっくら…を差し引いても!) 意外なほど吉弥さん@照葉との夫婦ぶりも睦まじくこれまた驚き。 熱が入り過ぎて一本調子になるセリフが気になるところはあったものの、総じて爽やかな良き殿様像は成功では? 「大川も、元は細川~」って、あ~た…汗
芝のぶさん@横山妻いよ・大川妹きく 図書との婚姻は意に添ったものではない上、体調も思わしくない“いよ”。 そこへきて夫から不義の詮議をかけられ手討ちに…と、なんとも可哀想なことこの上なく、痛々しい儚さを好演。 一方、図書の後添えとなる“きく”は、いそいそと夫を想っている様が微笑ましく、だからこそ義兄弟となった数馬の敵と知った悲劇は際立った印象
他に印象に残った方は、紫若さん@茶店の女おせん(「娘さん」と茶屋客が言うたび客席がどよめく)、國矢さん@倅紫之助(つっころばしを初めて拝見!)
大奥消火隊
新しい試み、という事で一から皆で創り上げた作品なら、出来ればカーテンコールには全員出てきていただきたかったなぁ…と思いました。
ともあれ、まだまだこのように面白い狂言が上演されずに眠っていたりするんでしょうから…復活上演、これからも期待してます!!
※吉弥さん@照葉のイラストはフィクションです。 ホントは一人だけちゃっかりと防火服に身を包み(腰元衆よ、鉢巻きと長刀だけでは消火出来ないだろ!)スタコラと逃げて笑えます。 殿の分も用意してあげてよ~!

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