二月歌舞伎・夜の部【歌舞伎座】
ぢいさんばあさん
森鴎外の短編小説を劇作家の宇野信夫氏が脚色した作品で、初演は昭和26年…という新歌舞伎。
おしどり夫婦の仁左衛門さん@美濃部伊織、菊五郎さん@伊織妻るん。 前半の仲睦まじい若夫婦ぶりがホントに微笑ましいだけに、中盤の悲劇と、終盤の…37年という歳月を経て共に白髪になった老夫婦の再会が感動的。 心の準備は出来ていたけど、やっぱり目の幅で泣いてしまいました※
(※目の幅で泣く = 目の幅いっぱいに涙がとうとうと流れる様を言う(私造語)
とある事情から単身赴任で京都に勤務する事になった伊織が酒の席で、「女房に会いたい」と堂々と仲間の前で言ってしまう事がとにかく驚きました。 だって、武士が!ですよ。 彼の友人達が言う通り、伊織の素直さが表現されている素敵なシーンだけに、“素直=心のままに動く”という事が、借金してまで刀を求め、團蔵さん@下嶋甚右衛門を斬ってしまう…という悲劇を招いた事を示唆しているように思えました。 自分の我侭で金を借り、しかもその相手を斬ってしまうのは…いささか理解に苦しみますが。
そして…團蔵さん@下嶋甚右衛門、イイ! イヤな奴ぶりが、とにかくイイ! ジリジリとチクチクと伊織に嫌味を言いながら迫る悪ぶり、イイ! 実は「伊織は俺の事嫌ってるんだろうなぁ。でもお金は貸してあげよう」「お酒の席に招待されなくってショック」という、実は寂しがり屋さんなのかも、と思ってしまうくらいキャラクターが立っていました。 團蔵さん、カッコいいですしね♪
伊織71歳、るん66歳。 37年の歳月を経た再会ながらも二人の互いを思う気持ちは少しも変わることなく、これから共に生きようと誓う二人の遠い眼差しに熱いものがこみ上げてきました。 私もこんな素敵な夫婦になりたいわ…って、その前に結婚しなきゃですね。
しかし伊織、るん共に、現代の71歳と66歳から考えると、昔の人で苦労したにしても真っ白すぎる白髪であまりのフケっぷりにビックリ! 実は私、菊五郎さんの女形ってちょっと苦手だったのですが、スミマセン これで考えが改まりました!…というくらい、旦那様思いの素敵な妻ぶりで『遠征した甲斐あり!』の感動でした。
野崎村
芝翫さん@お光、鴈治郎さん@久松、田之助さん@お常、富十郎さん@久作、雀右衛門さん@お染…という、なんとも豪華な【人間国宝揃い踏み】の野村崎。 今回のスゴ過ぎる配役、どうしたんでしょうか一体?!
芝翫さん@お光は、鴈治郎さん@久松の事を想ってはしゃいでみたり、雀右衛門さん@お染にはげしく嫉妬して意地悪してみたり…という様が“お転婆さん”って感じの…微笑ましいキュートさが印象的。 「久松さんの女房になったら…」と、眉を手ぬぐいで隠して自分でテレたりする所は最高に可愛くてニッコリ。 お染が持ってきたお土産?の箱の中身を口をとがらせてポーンと投げ返すのもご愛嬌☆
他もそれぞれに流石なのですが、富十郎さん@久作のキビキビした口跡が耳に心地良く、物語の状況がより把握できたような気がします。
舞台はお馴染みの大仕掛けの上、両花道。 出演陣に引けを取らない豪華さで大満足でした。
二人椀久
仁左衛門さん@椀屋久兵衛、孝太郎さん@松山太夫。 孝太郎さんは今回が初役との事で大変楽しみにしていました。 が…「か、硬い」という印象。 たおやかに、儚げに、幻想的の世界を醸し出すのは、現世にいる椀久だった…という印象が残りました。
演出も【椀久が一人寂しく】→【二人の愛の日々を楽しく思い出して】→【やっぱり一人】…という切り替わりが、意図的にかもしれませんが薄かったような? 前回観た時は太夫は玉三郎さんだったのですが、満開の桜のシーンに切り替わる様がパッと明るくなって「わぁ~」と客席がどよめいた楽しさがありましたので、その後、幻が消えて椀久一人が寂しく現世に残っている…という悲哀が際立った事にジーンときたものでした。 ですので、この演目はいろいろな演出方法があるのかしら?と次回の観劇がとても楽しみになりました。
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