金閣寺【キャナルシティ劇場】

面白かった! すっごく面白かった! 私が今までみたストレートプレイの舞台の中で一番面白かった!! 観劇で鳥肌が立ったって…どの作品以来だろう? まさかこんなに前衛的でアングラ色の強い舞台だったとは!
宮本亜門さん演出のストレートプレイって初めて観たけど「亜門さん、ミュージカルよりこっちの方が…(爆)」 いや~、とにかく演出の奇抜さや舞台美術、照明デザインの工夫が随所にあって「はぁ~、そうなるか!」「ほぉえ~、そう使うのか?」「うわぁ、頭イイ~!」と、感嘆の連続
しかし劇場が元四季劇場なだけに?…取っ組み合いのスローモーション演出に「それユタのいじめっ子では…」、上半身裸ロン毛の男性が後光を浴びて登場に「ジーザス・クライスト=スーパースターが聴こえる~」、焼け崩れた金閣寺の傾斜板上に立つ男性に「ペドロ親分の登場じゃ…」と劇団四季好きの人なら激しく同意するであろう雑念が過り困りました~。
観劇中客席は咳ひとつすることもためらわれるほどシーーーーン(携帯は2度ほど鳴ったけどな(怒)。 固唾を飲んで見入る…って感じでした(とは言え、TVの舞台中継とか録画映像で観ると集中力の持続が厳しいかと~)
実は私【金閣寺】って、遥か昔に原作を一度読んだきりだし、雷蔵さん主演の映画は録画するだけして観ていない、という作品だったのに、ストレートプレイは苦手なはずなのに…何故に観劇に至ったかと言いますと…ポスターデザインが、タイトルの筆文字が激しく好みで「コレ観たいっ!」 主演の森田剛さんは“V6のダンスの上手い小柄な人”という事と(そのダンスさえよく観たことはナイけど)「確か、新感線にも客演したことあるんだよな~」くらいの認識しかなかったのですが、何かの本で『舞台の仕事を熱望してる』というような趣旨の記事を読んで「お♪一度、森田さんの舞台観てみたいな~」と思っていたところに絶妙のタイミング☆という訳なんです。
開演前に客席に付くと緞帳は上がっており、舞台上ではすでに俳優たちが演技を。 正面に黒板のある無彩色の教室のセットの中で今っぽいラフなモノトーン衣装の男女8名が各々休み時間を過ごしているかのような…そこへ開演と同時に教師や生徒役と思われる主演俳優たちが入って来て、小説“金閣寺”の朗読を始めます。 「ええぇぇ~っ!これはまさか、時代設定を現代に…って事ですかい?!」と若干引いていると…「おぉぉぉぉっ!そう来るか!!」という手法で、一気に昭和20年代の小説の世界へ

基本、この教室のセットをベースに椅子、テープル、衝立て、ロッカーを使ってそれらを積み立てたり、並べたり、仕切ったり…と様々なシーンを切り取り、合わせて床に落とす照明デザインで道や廊下、屋外の木々や街の喧噪等を映し出し…様々に変る空間に違和感なく、またこれに役者が加わるとその演技が際立ち、教室の備品がソレにしか、照明がソレにしか見えない工夫に感嘆。
すごく新鮮だったのは、天井から吊ってある蛍光灯が全て床面に下りてきて、そのケーブルが雨のように、蛍光灯が縁石のように、その区切られた蛇行した道のりの表現が面白かった!!
溝口と鶴川が南禅寺の山門に上って京都の街を一望する様はピーンと一筋の光だけで表現されるのですが、金閣寺とは対局の穏やかな美しい光景を彼らと一緒に観たようで不思議な安らぎを感じました。
あとお寺での日常をケチャのような音楽にのせてダンスでキビギビと表現するのはコミカルで印象的。
また最大の関心事だった“金閣寺の表現~炎上シーン“…は、全く想像だにしない手法で驚愕。 ホーメイ歌手・山川冬樹さん“金閣寺=鳳凰”として擬人化で表現され、その肉体から発せられる音は溝口の心を支配し苦悩させ追いつめる存在として常に彼に付きまとい、ついには破滅へと先導役のようで…とにかく強烈なインパクト! 炎上のシーンでは教室のセットが分解した床面には銅板が敷かれ、それに真っ赤な照明が反射して…その圧倒的な赤の光量は客席までも染め、まるで炎の熱が感じられるかのよう。 そこに大駱駝艦の舞踏パフォーマンスを従えた山川冬樹さん@鳳凰が“ブッダの知恵の目”をイメージさせる目の映像が投影された高台に登場し、じわじわと溝口に迫り寄り飲み込む様は圧巻で鳥肌が立ちました!!!
森田剛さん@溝口 細くて小柄で猫背で丸刈り頭の彼は10代の徒弟としてなんの違和感もありませんし、常に体を丸めるようなオドオドしたような立ち姿から強い劣等感をも感じました。 吃音もわざとらしさは微塵も感じることなく、声の通りも良くセリフが聴き取り易い。 私が抱いていた溝口像はもっとモッサリとしたおっとりイメージだったのですが、今作品では全ての動きが軽やかでキレが良いうえ、瞳がギラギラとしており、特に娼婦の腹を蹴り続けるシーンではサディステックな感じにも驚きました。 森田さん、舞台役者として魅力的な方ですね! 今後も機会があれば是非彼の出演舞台を観てみたいものです。
大東俊介さん@鶴川 主演俳優お三方ともですが、すごくイメージにマッチした方ですね。 溝口とは対局の美や優しさ、純粋さ…全てを持ち合わせる“透明な美しい正の存在”として好演。 俳優さんの朗読って、読む本人が感情移入しすぎて聴いている側が引いてしまう事が多い為苦手なのですが、大東さん、高岡さん共に声が良く、状況説明の補足の手法は良かったです。
高岡蒼甫さん@柏木 「そんな柄のシャツ、何処で仕入れてきたんだよ!」と衣装さんに問いただしたいくらいの下品でやさぐれたキャラクターの様の演出に一役。 鶴川とは真逆の“怠惰でひねた悪の存在”的な雰囲気は、常に下から見上げて睨みつけるような挑むような瞳が印象的。 不自由な足ながら女が引きも切らず言い寄るフェロモン?的な雰囲気は今ひとつでしたが、好演!
中越典子さん@有為子/生け花の師匠は、はんなりとした色気と京言葉がとてもお似合い(着物姿がステキ☆)。 自らの母乳を茶に絞り出す様や、その胸を溝口に触れさせようとする様の色気は、溝口でなくともひるんでしまうような威圧感が。 花王おさむさん@副司は、瑳川哲朗さん@老師の懐の深さ・慈悲深さとは真逆のセコセコした神経質な様が絶妙。 岡本麗さん@溝口母高橋長英さん@溝口父の対比も同じく。
めちゃめちゃ長くなりましたが…それだけ面白かった☆という事で。 「観て良かった~!!

高野聖/将門【博多座】

高野聖

事前に原作を読んで観劇に臨んだ初観劇の演目。
個人的には劇中にスクリーン投影で情景を説明する手法は『せっかくの生モノの鮮度が落ちる』…と言いますか、ググッと物語に入り込んで観ていた気持ちがカクンと萎えると言いますか…苦手なんです。 ですが、今回は大拍手でした! すっごく上手い使い方で唸りました~!! 生の舞台と完璧に同化していて…シーンとシーンを上手く繋ぎながら、なおかつ観客をより深く物語の世界に誘う役割を果たしていたかと。 モノクロだったのも良かったのかな~。 唯一、皮膚に吸い付いた山ヒルをはがしても血が付いていないのが違和感、でしたが~(ちょっと映画【スタンド・バイ・ミー】を思い出した)
映像もですが、舞台美術や小道具も見所が多いですね! 蛇、馬、コウモリ、ムササビ、蛙、猿…って一つの歌舞伎演目でこんなに沢山の種類の動物が出て来た作品って初めて観ました! 差し金で操る方は新たにこれら動物の動きを研究されたのでしょうか? 険しい岩山の様子や山の渕の様子は回り舞台で仕切り方に変化をもたせながらスケール感を表現し、闇夜の中で青い照明が怪しく幻想的な世界を醸し出していてグイグイと引き込まれ…まるで映画を観ているような感じを受けました。

玉三郎さん@女は、今公演の演目中で一番色っぽく、艶っぽいかと。 ついと襖を開けて出たその姿だけで妖し気な色気を纏っていて、話し方が丁寧だけどあだっぽくて…獅童さん@宗朝と共についつい惹き付けられてしまう感じ。 當吉郎さん@次郎の存在も何やら不気味で、二人で暮らすこの館になにやら淫靡な雰囲気も漂っている不思議が。 次郎が食事の時に欲しがったものは…あれは何ですか?(後方席で確認出来ず~)
山の渕へ女と宗朝が二人連れ立って向かう時は客席下りがあり、二人を照らして付き添う青い照明係さんが大変そうでしたけど、闇夜に照らし出された二人の顔は大層不気味で…綺麗。 山の渕に二人して入り背中を流す場では、客席シーーーーーーン。 「玉さんが脱ぐなんて!」と、スミマセン!下世話な驚きが~(3階席から観てみたかったゾ!) なんとも官能的でした~。
“人間を獣に変える力を持つ妖女”であった…という事を翌朝旅経つ宗朝に語り聞かせる歌六さん@親仁。 ものすごい量のセリフなのに明瞭でホント聴きやすい。 今公演で改めて思った事「歌六さん、口跡鮮やか~!!」 最近は何故だか老け役が多い歌六さんですが、快活な壮年役も久々に拝見したいものです♪
いや~、ビックリ! 【高野聖】予想外に(失礼!)面白かった~☆

将 門

今公演で、初めてお囃子連中さんが舞台上に(下手に常磐津連中)
和蝋燭の灯りに照らされてすっぽんから玉三郎さん@滝夜叉姫。 客席が「ほぉ~っ」とため息をついて大拍手なのがよく判る。 「やっぱ玉三郎さん、綺麗だわ~」 クモの巣文様の打ち掛け素敵☆ 「覚悟しぃやぁ~!」との大立ち廻りでは「背筋+腹筋、すご~い!」とこれまた客席から感嘆の声が漏れ聞こえました。 玉三郎さんの紋のし菱紋を形作る所作も取り入れられ見応え充分。 ガマの造りがちょ~っとチープで(高野聖が秀逸だったので余計気になる)屋根上に姿を表した時は「よいっしょ、よいしょ」って感じで横から出て来たのに笑えた。 ラストは雷鳴が轟き大屋体崩しで大迫力☆

古典演目が1本あって良かった♪ しかし…笑三郎さん【海神別荘】だけの御出演ってもったいないなぁ~。

海神別荘【博多座】

本日の博多座は【着物の日】で客席は華やか☆ 着物着用者には久留米絣のミニポーチのプレゼントが♪
夜の部は17時開演の…上演時間1時間40分、という事で夕食は終演後に博多座内レストランでいただく…という、なんか変な感じでした。 「えっ?まだこんな時間?」ってな~。
玉三郎さんが泉鏡花作品を舞台化した作品は過去に【天守物語】しか観たことがなく、今作品は初見。 いろんな意味で…観る前から敬遠していたのですが「そこは自分の目で観てみないと!」 玉三郎さんも5年半ぶりの博多座お目見えですし☆
私“海大好き”なんで、基本、海が出てきたり潮風を感じたりする設定のものは前のめりで観てしまいます。 ので、今回の海の中の舞台美術がドツボにハマりました!!(何故だか俳優祭の【鯛多二九波濤泡】の竜宮城がフラッシュバックしたのは内緒汗) 侍女達の袖がドレープになってて、後ろは打ち掛けのようでいて…というアレンジ着物が素敵! 白竜馬はなんか品があって…ちょっと映画【ネバーエンディング・ストーリー】のファルコンを彷彿とさせるものが。 しかし!あ~ゆ~動きをするものって、私の中では“長崎くんちの龍踊り”と決まっているので、ラッパや銅鑼が聞こえてくるような幻聴が~汗
歌六さん@沖の僧都はお茶の水博士のようなヅラがツボでした。 登場より滔々と語る様は言葉がクリアですごく綺麗で聴き入ってしまいました。
橋吾さん@博士は、最初の出で「亀ちゃん?!」って思ったくらい似てました。 私、橋吾さんと認識してこんな大きなお役で拝見した事がなかったので、今日の観劇で大ヒットでした☆ すごく声がイイですね。
笑三郎さん@女房は綺麗☆ あの年でなんで玉三郎さんより年上のような風情があるんでしょう? 澤瀉屋さんのお弟子さんも沢山御出演なんですね~。
獅童さん@公子は…意外にも獅童さん、腿太いんですね(ってまずソコですか?) ん~と、なんか優しい物言いが“胡散臭い感じ”に聴こえるのは私がヒネているからでしょうか? セリフで美女の事を「貴女、あなた」という呼び方が好き。 「見てみて~」と本を持ってスキップしながら侍女達と戯れる様がなんとも~(爆)
玉三郎さん@美女…って役名が美女って凄いですね。 舞台の全てが“玉さんワールド”なので、それを全身で堪能させていただきました~、という感じ。 この本のあらすじを文字にするとなんの事はナイ、あっさり…なのに、それを嘆美な世界としてヴィジュアル化しここまで昇華させ舞台化した玉さんに改めて敬服
公子のラストのセリフ「女の行く極楽に男はおらんぞ 男の行く極楽に女はいない」って…なんだ、つまんな~い!と思いっきりガッカリした私は不謹慎でしょうかニヤリ